裁判例に学ぶデジタル・フォレンジック捜査入門(第1回)

第1回 宅配ロッカー事案 システムログデータの解読(大阪地裁平成24年7月10日判決)

裁判例に学ぶデジタル・フォレンジック捜査入門(第1回)
 事件の概要

⑴ N警察署刑事課では、管内にあるAマンションの住人Bから、「宅配ロッカーに届いていたはずの荷物が無くなっている」旨被害申告を受けた。

⑵ なお、Aマンションの宅配ロッカー(以下「本件宅配ロッカー」という。)は、荷物を入れる「荷置口」と荷物を取り出す「受取口」が別々に設けられた両面扉式のロッカーであり、Aマンションのエントランスの外にある配達用スペースと、同エントランス内にある受取側スペースに向けて、それぞれ、施錠装置付扉のついた荷置口と受取口が設けられていた。

⑶ そして、本件宅配ロッカーは、荷置口側からタッチパネルを使って、届け先の部屋番号、配達業者名、使用するロッカー番号を入力し、選択したロッカーに荷物を入れた後、荷置口側の扉を閉めると、同扉が自動的に施錠されるとともに、レシート受取口からロッカー番号と配達日時が印字された配達状及び受領証が排出され、受取人は、カードキーを所定の位置に差し込む操作により、受取口側の扉を解錠して、届いている荷物を取り出せる仕組みとなっていた。

本件宅配ロッカーなどの位置

本件宅配ロッカーなどの位置

⑷ 本件被害申告に当たって、Bは、概要、

・令和8年6月24日午後5時頃、ポストに入っていた配達状を見て、荷物が届いていると思い、カードキーを使って本件宅配ロッカーを操作し、同配達状に記載されていた2番ロッカーから荷物を取り出そうとしたが、「預かり荷物はない」旨の音声ガイダンスが流れ、受取口側の扉が開かなかった

・そこで、同月26日午前10時頃、管理会社に対して異常がある旨を連絡したところ、荷置口側の扉を遠隔操作で開けるので、そちらに回って確認してほしい旨依頼され、これに従い2番ロッカー内を確認したが、中には何も入っていなかった

・届いていたはずの荷物は、ネットショップで購入した約5千円の自動車用のルームミラー1個であった

 などと被害状況を説明した。

⑸ 同課の捜査官である池大路は、何者かがB宛てに届いた荷物(以下「本件荷物」という。)を持ち去ったものと考え、本件宅配ロッカーを管理しているC管理会社から同ロッカーの動作等に関するログデータを収集して確認したところ、本件に関連すると思われる2番ロッカーのログは、以下のとおりであった。

ロッカーの動作等に関するログデータ表

⑹ なお、C管理会社は、専用の管理システム(以下「本件管理システム」という。)を利用して本件宅配ロッカーを管理しており、前記各ログについても、本件管理システムが、インターネット回線を経由して、各宅配ロッカーのコンピュータから操作ログ等を吸い上げて収集・保存していたものであった。

⑺ その後、池大路が前記①~④のログに関し、C管理会社で本件宅配ロッカーのメンテナンスやトラブル対応等をしていた従業員のDに事情を聞いたところ、「荷物センサーの値は、ロッカー内部の荷物の有無を表しており、2番ロッカーから本件荷物が取り出された日時は、②のログの完了年月日/時分である2026/06/24 14:48であるといえる」旨の回答を得た。

⑻ これを前提に、池大路が防犯カメラ映像に関する捜査を進めたところ、「2026/06/24 14:48」前後頃、本件犯行現場付近を行き来していた人物は1人しかおらず、この人物として、本件荷物の宅配業務に従事していたアルバイトのXが浮上した。

⑼ なお、池大路がDに対して本件宅配ロッカーの動作について確認したところ、同ロッカーの構造上、扉を勢いよく閉じると、扉が一瞬閉じた後、すぐに跳ね返って開いてしまうことがあるが、そのような際も、扉の開閉を感知するスイッチが動作するので、配達状等は発行されるという異常な動作(以下「異常動作」という。)をすることがあり、また、このような異常動作となった際は、扉が開いているにもかかわらず、扉のロック部分が施錠時の位置で固定されてしまうことで、扉が閉まらなくなるという現象が生じることがあるとのことであった。

 @N警察署刑事課  
課長
例の宅配ロッカーの事件、進捗はどうだ?
池大路
Xの勤務先に当たってきました。Xの勤務態度はあまり良くないようですが、仕事はちゃんとするようです。
課長
おまえと気が合いそうだな(笑)
池大路
茶化してないで、ちゃんと聞いてくださいよ。それで、Xは車を持ってないし、交際相手や家族と一緒に住んでいることもないとのことでした。
課長
ますます気が合いそうじゃないか。
池大路
課長とも気が合いそうですよ?
課長
俺の勤務態度は真面目だぞ? どっかの誰かさんと違って。まぁ、イケオジ刑事殿は、Xが犯人像に合致しないと感じているということか。
池大路
ええ。車も持ってないのに車用のルームミラーなんぞいらんでしょ。
課長
確かにそうだが、周囲が把握していない車を持っている知人がいるとか、ミラーを車に取り付ける以外の別の用途で使う可能性もあるだろう…。それに、ロッカーのログと防犯カメラ映像という客観的証拠からすると、Xのほかには犯行機会がある人間はいないんだろ?
池大路
そうなんですよね…。
課長
防犯カメラ映像の時刻がずれているということはないのか?
池大路
その点はしっかり確認していますよ。NICTのサイトで日本標準時を確認し、防犯カメラ映像を保全するときに時刻を補正してます。
 国立研究開発法人情報通信研究機構(National Institute of Information and Communications Technology)
課長
じゃあ、ロッカーのログの方はどうなんだ?
池大路
ロッカーを管理するシステムがインターネットに接続されていて、ログの時刻が狂うことはないようです。
課長
課長
池大路
それが、ロッカーシステムのメンテナンス担当者に聞いても、詳しいことまではよく分からないとのことで…。
課長
どうしてだ?
池大路
前任者からの引き継ぎのとき、そこまで詳しい説明を受けていなかったようで、ログに関するマニュアルも残ってないとのことでした…。
課長
どこに相談に行くべきかは分かっているな?
池大路
久々なんで彼女が好きそうなスイーツ買っていきます…。
 @A県警サイバー局デジタルフォレンジックラボ 
池大路
スイマセーン。どんなログでも解読してくれる凄腕のデータ解析官がいるって聞いて来たんですけど?
白帽子
白帽子
池大路
いや、君の私物じゃないだろ(笑)まぁ、俺たち現場の人間からすると、DF捜査の支援体制が強化されたのは嬉しいことだがね。ただ、そっちは異動やら研修やらで大変だったようだな。
白帽子
まぁね。でも、こっちとしても、捜査の現場支援がより手厚くできる環境になったんで、願ったり叶ったりよ。
池大路
それは有り難い。で、ほい、お土産。
白帽子
分かってるじゃないの(笑)で、今日はなんなの?(モグモグ)また課長さんに怒られちゃった?(モグモグ)
池大路
いや、実はかくかくしかじかで…。
白帽子
うーん。その宅配ロッカーを管理してるシステムって、操作画面はどんな感じだった? 新しそうだった? それとも古そうだった?
池大路
だいぶ年季が入っていたな…。
白帽子
白帽子
池大路
そんなことあるのか?
白帽子
そんな珍しいことではないんじゃない? システムを作った人が退職しちゃったり、外注先の会社が廃業しちゃったりとかでいろいろあって、分からない部分はあるけど、動いてるから問題なしって感じで運用されているシステムも、少なくはないと思うわよ。
池大路
そうなのか…。で、問題のログはこれなんだが、これって、どういう意味か分かるかな?
白帽子
これは………。まさか……。
池大路
えっ、なにか分かるのかっ!
白帽子
全然わかんない(笑)
池大路
池大路
白帽子
たしかにそうだけど、このシステムを作った人じゃないと、ログの正確な意味は分からないわよ…って、なんか似たような事件が過去にあった気がするわね。
池大路
どんなっ!
白帽子
忘れちゃった(笑)でも、こういった過去の事件や裁判例のことなら、私よりももっと詳しい人がいるじゃない?
池大路
あっ、才羽検事か! 分かった行ってみるよ。
白帽子
じゃ、私も久しぶりに才羽検事に会いに一緒に行くわね。
 @N地検サイバー係検事室  
才羽
いらっしゃい、お二人さん。宅配ロッカー管理システムのログが問題になってるんだっけ?
池大路
そうなんです。かくかくしかじか。
白帽子
これこれうまうま。
才羽
あぁ、たしかに、昔、よく似たような事例があったね。ところで、イケオジ刑事、この事件、強制捜査の着手については、どのように考えているのかな?
池大路
強制捜査の着手には慎重になっています。カチョーとログについて話をしてるなかで、解明できてない点があったので…。
才羽
いい判断だね。今回のケースと同様の事例で、大阪地裁平成24年7月10日判決の事件があるんだけど、この事件では、被疑者を逮捕、起訴した後、公判の段階でログの理解に誤りがあることが発覚して、結局、検察官が無罪論告をしているんだよ。
白帽子
白帽子
才羽
それはね、公判段階での補充捜査として、宅配ロッカー管理システムのプログラムを作った会社でその設計責任者をしていた人から事情を聞き、その供述調書が公判で取り調べられたんだよ。ちなみに、このプログラムが完成したのは平成6年頃のことで、この会社は既に倒産していたみたいだね。
この事件では、今回問題となっているのと同じようなログが残っていたから、詳しく解説するね。

 

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