<特集1>苦情申出制度~国民の期待と信頼に応えるために~
苦情申出制度の適切な運用について
苦情は、組織改善に資する有益な情報であり、これに対して誠実な対応をとることが求められていますが、このことは警察にとっても例外ではありません。
本特集では、「国民のための警察」を確立すべく、警察における苦情申出制度(警察法79条)の概要や運用状況に焦点を当てていきます。
ここ最近の全国警察に関する情勢として、警視庁における大川原化工機事件の国賠請求訴訟で警視庁公安部の捜査の違法が指摘されたほか、神奈川県警察における川崎ストーカー事案(以下「川崎事案」という。)においては人身安全関連事案に対する不十分・不適切な対応が問題となりました。
詳細は後述しますが、川崎事案においては、被害者家族から二度にわたって、警察の対応についての申出が寄せられていたにもかかわらず、これを苦情として取り扱わなかったことで、県公安委員会や警察本部長への報告がなされず、結果として組織的に検討する機会が失われてしまったということが指摘されています。
これらの事案を受けて、昨年に開催された臨時の全国本部長会議においては、警察庁長官からの訓示で、「これらの問題は、長年にわたり全国警察を挙げて取り組んできた警察改革の精神が、正に形骸化しつつあることを示すものであると言っても過言ではなく、今こそ、警察の在るべき姿を取り戻す必要がある」との厳しい指摘がありました。
そこで、今回は、警察改革の発端となった過去の事案から、その後の経緯、警察改革の精神について再認識していただき、その過程で創設された「苦情申出制度」について理解を深めていただきたいと思います。
ア 平成11年9月、報道機関が厚木警察署集団警ら隊において、集団暴行が繰り返されていた(以下「厚木事案」という。)旨の記事を掲載しました。
厚木事案については、報道前に既に、懲戒処分を実施していましたが、処分を公表せず、警察庁にも報告していませんでした。
また、厚木事案が報じられた当初、暴行行為の中で拳銃の不適切な取扱いの事実も取り沙汰され、それに対し警察本部は、そのような事実は確認できないと回答していましたが、監察による調査の過程で拳銃の不適切な取扱いが認定されており、報道機関に事実と異なる説明をしていました。
後日、警務部長が会見し、拳銃の不適切な取扱い等があったと認めたことで、翌日の報道で、「神奈川県警察、一転認める」等と大きな記事になりました。
イ 厚木事案が報じられた翌日、相模原南警察署刑事課の巡査長が平成10年11月に押収品を持ち出し、その後に退職したとの記事が掲載されました。
この報道に対し、警察本部は当初、「持ち出された押収品はメモ帳であり、自己都合退職であった。」と説明しましたが、説明が二転三転し、結局、「押収品はネガフィルムであり、当該職員が被写体となっていた女性にネガの買い取りと交際を強要したとして、懲戒免職処分にしていた。」と説明しました(以下「相模原南事案」という。)。
厚木事案及び相模原南事案では、いずれも刑事責任が問われていなかったことから、警察庁は神奈川県警察に対して刑事責任を問うべきケースであれば速やかに立件するように指示しました。
ウ 両事案の処理が進められていた最中、新たな疑惑が報じられます。
平成8年12月、警察本部警備部外事課の警部補が、覚醒剤の使用を自認していたにもかかわらず、本来行うべき捜査、立証を行うことなく立件を見送り、他の事実を理由に諭旨免職処分にしたというものであり、当時の警察本部長らが事件を隠蔽したのではないかという疑惑が報じられました。
警察本部では平成11年11月、覚せい剤取締法違反(当時)で元外事課警部補を逮捕する一方、隠蔽工作に関わった元警察本部長、警務部長らを犯人隠避等の被疑者として送致し、元警察本部長らは有罪判決を受けています。
また、これらの非違事案の監督責任及び警察庁に対する報告懈怠・処理の不適正により、警務部長らは懲戒免職等の処分を受けました。
(2)神奈川県警察における一連の事案を受けた対策警察庁は、神奈川県警察における一連の事案の反省を踏まえ、全国警察に対して、いくつかの非違事案対策を指示します。
1点目は、都道府県公安委員会に対する適切な報告の徹底です。
神奈川県警察に限らず、全国警察では非違事案が発生しても公安委員会に報告することなく処分がなされていましたが、これでは公安委員会の管理機能が発揮されているとは言い難いため、職員による非違事案の発生時や処分時に適切な報告を行うことを都道府県警察に指示しました。
2点目は、警察本部長をはじめとした幹部に対する教養の徹底です。
一連の事案において、警察本部長をはじめとした組織の幹部自らが隠蔽に加担した反省から、幹部教養の徹底を指示しました。
3点目は、監察体制の強化と特別監察の実施です。
前述の隠蔽には、組織の非違を正すべき監察も関わっていたことから、監察の体制を強化することとし、都道府県警察に「首席監察官」が設置されるとともに、監察担当者が増配置されました。
また、非違事案の未然防止対策が確実に講じられているかをチェックするため、警察庁と管区警察局は都道府県警察に対し、警察本部は警察署に対し、「特別監察」を実施しました。