真実を導く捜査支援~捜査員を支える「自転車モンタージュ」とは?~
前警視庁捜査支援分析センター
警察庁指定広域技能指導官
1 予想だにしなかった警察官の道へ
(1)まさかの再会
読者の皆さんは、どのようなきっかけで警察官を目指すことになりましたか。
テレビドラマの影響を受けて刑事を目指すことになった方もいれば、交通事故を減らしたいという思いから白バイ隊員を目指すことになった方もいるでしょう。ご家族の中に警察官の方がいたため、小さな頃から警察官になることを夢見ていた方もいるかもしれません。
私はというと、あいにく皆さんに誇れるようなきっかけを持ち合わせていません。なぜなら、トイレでの偶然の再会がなければ、この道には進んでいなかったかもしれないのですから。
私は、北海道の出身で、大学の工学部を卒業した後、一般企業に就職しました。時はちょうど就職氷河期で、就職活動にはだいぶ苦労した記憶があります。
なんとか就職できたものの、就職先は大学で学んだ専門知識を生かせる環境ではなかったため、ゼロから学ぶ意気込みで、新しい世界へと飛び込むことになりました。ただ、理想と現実の間でもがき続けているうちに、「転職」という二文字が次第に頭の中でちらつくようになったのです。そんな矢先、思いもよらない再会が訪れました。
場所は、札幌駅のトイレの中の手洗い場でした。突然、隣から声を掛けられたのです。声の主は高校時代の同級生で、7年ぶりの再会でした。話を聞くと、夏休みを利用して北海道に帰省中とのこと。会話を交わす中で、何気なく「何の仕事をしているの?」と尋ねたところ、「警視庁の警察官として働いているんだよ」という意外な答えが返ってきました。
この再会を機に、お互いの連絡先を交換して、ちょくちょく連絡を取るようになりました。そして、「警察ってどう?」「どんな内容の仕事をしているの?」といったやりとりをしているうちに、警察に対して少しずつ興味が湧いてきたのです。
そこで、思い切って道警(北海道警察)の説明会に足を運ぶことにしました。いざ話を聞いてみると、思っていた以上に警察にはいろいろな仕事があるということが分かり、しっかり取り組めば、自分の長所だったり、特技だったり、そういった自分の強みというものが役立てられるのではないかと思うようになりました。そこからは、決断が早かったです。「警察官になるための試験を受けよう! どうせなら、日本の首都の治安を維持する警視庁一択で!」という思いを抱き、札幌・東京間の往復航空券をすぐさま購入しました。
試験当日、細かいことは調べずに本番に臨んだため、実はちょっとしたトラブルがありました。まずは筆記試験だったのですが、その日のうちに、その合格発表があったのです。幸運なことに合格していたのですが、翌日に面接試験が行われることをその場で初めて知りました。既に、当日の日付で、帰りの航空券を購入しています。これはもう、どうしようもありません。全額負担を受け入れ、泣く泣く帰りの飛行機をキャンセルしました。とはいえ、そんなトラブルに直面しても、警察官への思いは全く揺らぐことなく、面接試験に臨めたと思います。その結果、無事に面接試験も合格することができました。
最終合格を果たした時はホッとしましたが、それと同時に、何だか運命的なものも感じました。もしも、あの日、あの時、あの場所で、友人に出会わなかったとしたら、警察官を目指すことはなかったわけですから。
(2)自分の長所や特技を生かして
自分の長所や特技を生かして、被疑者の検挙につなげたい。きっと誰もがそう思うように、私もその思いで、警察官の道へと進みました。そして、時は経ち、被疑者の自転車を防犯カメラ画像から特定する捜査手法を生み出すことができました。画像を解析して特定に至るこの手法は、「自転車モンタージュ」とも呼ばれています。今となっては、「自転車モンタージュ」の生みの親として、多くの捜査員をサポートしていますが、警察官になった当初は、どんな長所や特技をどのように生かせるのか、少なからず不安もありました。特に、警視庁は大きな組織ですから、業務の幅がとても広く、どのような道に進むべきか迷いが生じやすいように思います。実際に、自分がそうでした。
航空系の業務に憧れがあったので、捜査活動や救助活動を支えるヘリコプターのパイロットを目指してみようと思ったり、絵を描くのが得意なので似顔絵捜査官を目指そうと思ったり、当時は捜査支援分析という分野はなかったものの、大学の工学部出身ということもあり、データ分析をするのが得意だったため、そんな特技を生かせる部門を目指してみようと思ったり……。面白いと思える仕事が、警察にはゴロゴロと転がっていたので、転職が決まってからもワクワクが止まりませんでした。
読者の皆さんの中には、「とりあえず警察官になろう」という思いから、この世界に入った方も多いかと思いますが、この先いつの日か進路に悩むことがあるかもしれません。そんな時は、「自分がワクワクするような仕事は何か?」という問いを、自分自身に投げ掛けてみてください。答えを探しているうちに、自分の長所や特技を見つめ直すことができ、進むべき道が切り開けると思います。