<特集1>金属盗対策
盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律の概要
令和7年6月、金属盗が増加している現状を踏まえ、特定金属くず買受業に係る措置等を内容とする「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」が成立・公布されました。そして、令和8年6月、同法は全面施行されるに至っています。
本特集では、金属盗の事案処理に携わる全ての現場警察官に向けて、本法の概要等について解説します。
第2 盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律の立案に至る背景・経緯
第3 盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律の概要
1 総則
(1) 目的
(2) 定義
2 特定金属くず買受業に係る措置
(1) 特定金属くず買受業の届出
(2) 氏名等の表示
(3) 名義貸しの禁止
(4) 本人確認
(5) 本人確認記録の作成等
(6) 取引記録の作成等
(7) 警察官への申告
(8) 監督
(9) 盗難特定金属製物品に関する情報の提供
(10) 両罰規定
3 犯行用具規制
(1) 概要
(2) 指定金属切断工具
(3) 隠匿携帯の禁止
(4) 罰則
4 盗難防止情報の周知
(1) 概要
(2) 留意点
5 雑則
(1) 条例との関係
(2) その他
6 施行期日
第4 おわりに
第217回国会において、「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」(令和7年法律第75号。以下「法」という。)が成立し、令和7年6月20日に公布され、令和8年6月1日に全面施行された。
法は、近年増加している金属盗の対策の一環として、「特定金属くず買受業に係る措置」、「犯行用具規制」、「盗難防止情報の周知」の3本柱から構成されており、本稿においては、その概要等について解説することとする。
なお、本稿中、意見にわたる部分は私見であることに留意されたい。

昨今、金属価格の高騰等を背景に、金属類を被害品とする窃盗である金属盗の認知件数が増加しており、金属盗の統計を取り始めた令和2年と比較すると、令和6年の認知件数はその約4倍に当たる2万701件であった。また、令和6年中の被害額は約140億円となっており、窃盗全体の被害額の約2割を占めている。中でも太陽光発電施設からの金属ケーブルの盗難被害が多発しており、令和6年の認知件数は、7,054件であった。

この種の事案が発生した場合、盗難自体の被害に止まらず、太陽光発電施設であれば電力供給ができないことによる経済的損失も生じたりするなど、国民経済に大きな影響が及んでいた。
また、こうした金属盗の多くは、不法滞在外国人グループらによって広域的・組織的に敢行され、末端のメンバーを入れ替えながら犯行を繰り返すなど、匿名・流動型犯罪グループとしての特徴を有しており、また、一部の悪質な買受業者の存在がこれを助長しているなど、治安上の大きな課題となっていた。
他方で、昨今のカーボンニュートラルに向けた国際的な動き等に鑑みると、今後も金属くずの需要は高まり、金属価格についても高止まりすることが見込まれ、金属盗対策は急務であった。
盗品の流通防止を目的とした法律としては古物営業法(昭和24年法律第108号)があるものの、同法における古物とは、そのままで又はいくぶんの手入れをすればその物本来の用法に従って使用できるものとされており、太陽光発電設備から切断されて盗まれた金属ケーブル等はもはや本来の用法では使用し得ず、古物には該当しないため、金属くずを業として買い取ることについては古物営業法の規制は及ばない。また、17道府県において金属くず買受業者を規制するいわゆる「金属くず条例」が制定されているものの、条例が制定されていない都府県の金属くず買受業者に盗品が持ち込まれる事例も多く発生していたことから、法律による全国的な措置が必要であった。
(1) 目的
すなわち、特定金属製物品の窃取を防止するためには盗難特定金属製物品の処分を防止することが重要であることに鑑み、特定金属くず買受業について買受けの相手方の氏名等の確認を義務付ける等の措置を講ずるとともに、併せて指定金属切断工具を隠して携帯する行為を禁止すること等により、特定金属製物品の窃取の防止に資することを目的としている。
具体的には、
●特定金属くず買受業を営む者に係る措置を講ずることにより、窃盗犯による盗品の換金(盗難特定金属製物品の処分)を困難にさせ、
●指定金属切断工具の隠匿携帯を禁止することにより、特定金属製物品が窃取される前の先制的な対処を可能とし、
●盗難防止情報の周知により、事業者による効果的な防犯対策を促進させる
ことにより、特定金属製物品の窃取を防止することとしている。
ア 特定金属製物品(法2条1号)
●特定金属(銅その他犯罪の状況、当該金属の経済的価値その他の事情に鑑み、当該金属を使用して製造された物品の窃取を防止する必要性が高い金属として政令で定めるものをいう。)を使用して製造された物品のうち、主として特定金属により構成されているもの
をいう。
法の適用範囲が過度に広範にならないよう、金属盗の被害実態等を踏まえ、金属の中でも特に盗難対策が必要なものを「特定金属」として規定している。銅については、他の金属に比べて価値が高く、需要の高い状況が比較的続くことも見込まれ、買受けに際して特に盗品が流入しやすいといえることから、法において特定金属として定められた。また、銅以外の金属についても、当該金属を使用して製造された物品に係る窃盗の認知件数及び被害額や当該金属の取引価格の状況等から盗難を防止する必要性を総合的に考慮して、法によって盗難防止を図る必要性があると判断された場合には、特定金属として政令で定められる可能性があるが、本稿執筆時点における特定金属は銅のみである。
また、特定金属製物品は、特定金属を使用したあらゆる物品が該当するわけではなく、「主として特定金属により構成されているもの」がこれに該当する。具体的には、物品の重量又は価格の2分の1以上を特定金属が占めている場合を指し、少量の特定金属が含まれている場合等は対象から除いている。
●窃取された特定金属製物品
をいう。
●主として特定金属により構成されている金属くず(物品を製造する過程において生ずるもの及び古物営業法2条1項に規定する古物に該当するものを除く。)
をいう。
金属くずとは、何らかの加工が施されるなどの理由により、金属製物品自体の状態が変化したり、当該金属製物品から分離されたりするなどして、当該金属製物品の本来の用法に従って使用することが不可能になったものをいう。なお、その物の本来の用法に従って使用することができる物品は古物営業法2条1項に規定する「古物」に該当するのであって、「金属くず」には該当せず、この点については、特定金属くずの定義上も「古物に該当するもの」を除くことを確認的に規定している。
また、特定金属くずについては、金属くずのうち、「主として特定金属により構成されているもの」、すなわち、重量又は価格の2分の1以上を特定金属が占めているものが該当する。
なお、新品の金属製物品等を製造する段階において生ずる金属くず(いわゆる「端材」)は、買受けにおいて盗品が流入する可能性が低いことから、法の対象外としている。
●特定金属くずの買受けを行う営業
をいう。
なお、法の潜脱防止のため、買受けの対価として金銭以外の財産上の利益を提供する場合もその対象に含むことを明示的に規定している。
●ケーブルカッター、ボルトクリッパーその他の特定金属を切断することができる工具であって、一般消費者が通常生活の用に供することが少ないと認められ、かつ、特定金属製物品の窃取の用に供されるおそれが大きいものとして政令で定めるもの
をいう。
便宜上、定義の詳細については3において後述することとする。
前述のとおり、盗品の流通防止に係る法律としては、古物営業法があるものの、切断された金属ケーブルについては古物に該当せず、同法に基づく各種義務がかからなかった。
そこで、金属くず買受業における匿名性の高い決済を困難とするため、金属くず買受業者に対して、買受け時の本人確認義務等を課した上で、さらに、窃取された金属製の物品に由来する金属くずである疑いがある場合の申告義務も課すこととすれば、多くの犯行グループは、犯行の発覚を免れるために、窃取した金属くずを金属くず買受業者の元に持ち込むことを回避せざるを得なくなると考えられることから、以下の措置を設けることとした。
ア 概要
そこで、特定金属くず買受業を営もうとする者については、営業所ごとに、氏名又は名称、住所、営業所の所在地その他国家公安委員会規則で定める事項を、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に届け出なければならないこととした(法3条1項)。
あわせて、届出事項を変更する場合、営業所を廃止する場合についても届出義務を課している(法3条2項)。
なお、個々の営業所について正確な実態把握や必要な指導監督を行えるよう、法においては、事業者単位ではなく、営業所単位で届出義務を課している。
●無届営業については6月以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金又はその併科
●虚偽届出及び変更届出義務違反については30万円以下の罰金
に処することとした(法23条1号並びに24条1号及び2号)。
ア 概要
ア 概要
法においては、古物営業法上の本人確認よりも厳格な本人確認義務を課しているが、これは、古物については、一定の個別性があり、そのもの本来の姿を保ったまま流通していくのに対し、金属くずについては、元々の形状とは異なる形に変化し、他のものと混和して流通していくという違いがあり、金属くずは、物品から得られる情報が乏しく、盗品該当性を判断するためには、買受けの相手方に係る情報がより重要であること等を踏まえたものである。
具体的には、過去に買受けの相手方となったことがある者からの買受けを行う場合であって当該買受けに係る代金の支払をその者の預金又は貯金の口座への振込みにより行うとき等、盗難特定金属製物品に由来する特定金属くずが流入する可能性が低いと考えられる、国家公安委員会規則で定める一定の類型の買受けについては、本人確認を要しないこととした(法7条1項ただし書)。
そこで、買受けの相手方に加え、取引担当者や代理人といった現に当該買受けに係る取引の任に当たっている自然人についても本人確認を行わなければならないこととした(法7条2項)。
他方、国、地方公共団体、人格のない社団又は財団等の実在証明が困難な者が買受けの相手方である場合には、現に当該買受けに係る取引の任に当たっている自然人を買受けの相手方とみなし、当該自然人の本人確認を行うこととした(法7条3項)。
そこで、特定金属くず買受業を営む者は、本人確認を行った場合には、直ちに、国家公安委員会規則で定める方法により、当該本人確認に係る本人特定事項、当該本人確認のためにとった措置その他の国家公安委員会規則で定める事項に関する記録を作成するとともに、当該本人確認記録を、当該本人確認に係る買受けの行われた日から3年間保存しなければならないこととした(法8条)。
具体的には、特定金属くず買受業を営む者は、特定金属くずの買受けを行った場合には、直ちに、国家公安委員会規則で定める方法により、当該買受けの相手方の氏名又は名称、当該買受けの期日及び内容その他の国家公安委員会規則で定める事項に関する記録を作成するとともに、当該取引記録を、当該取引に係る買受けの行われた日から3年間保存しなければならないこととした(法9条)。
この点、取引記録については、一定の買受けにつき義務が除外されている本人確認とは異なり、取引の形態にかかわらず常に作成をしなければならない。これは、仮に取引記録が作成されていない場合には、当該取引が本人確認や確認記録の作成・保存義務の対象かどうかを確認することが困難となるため、確認義務の履行の担保としては不十分であり、また、全ての取引において盗品が流入する可能性があることを踏まえると、一部取引についてのみ取引記録が作成されているだけでは、窃盗犯へのけん制効果といった点からも不十分であるからである。
具体的には、特定金属くず買受業を営む者は、取引の態様その他の事実に照らして、買受けに係る特定金属くずが盗難特定金属製物品に由来するものである疑いがあると認めたときは、直ちに、警察官にその旨を申告しなければならないこととした(法10条)。
指示の要件は、
●特定金属くず買受業を営む者又はその代理人等がその営み、又は従事する特定金属くず買受業に関し、この法律若しくはこの法律に基づく命令又は他の法令の規定に違反したと認める場合において、
●当該特定金属くず買受業を利用した盗難特定金属製物品の処分を防止するため必要があると認めるとき
である。
「当該特定金属くず買受業を利用した盗難特定金属製物品の処分を防止するため必要があると認めるとき」とは、法の義務違反の状態が現存している場合のほか、その違反の状態は現存していないものの、その違反の原因となった事由が存続しており、その違反が偶発的なものではなく、繰り返されるおそれがあるような場合をいう。
営業停止命令の要件は、
●特定金属くず買受業を営む者若しくはその代理人等がその営み、若しくは従事する特定金属くず買受業に関しこの法律若しくはこの法律に基づく命令若しくは他の法令の規定に違反したと認める場合において当該特定金属くず買受業を利用した盗難特定金属製物品の処分を防止するため特に必要があると認めるとき
又は
●特定金属くず買受業を営む者が前条の規定による指示に違反したと認めるとき
である。
「当該特定金属くず買受業を利用した盗難特定金属製物品の処分を防止するため特に必要があると認めるとき」とは、法の義務違反による重大な法益侵害が生じるおそれがある場合をいう。
なお、立入検査における確認の対象物たる特定金属くず、帳簿、書類等については、届出義務の対象となる「特定金属くずの買受けを行う営業所」以外にも保管されている場合があることから、特定金属くずの買受けを行う営業所以外の営業所、特定金属くずの保管場所も立入検査の対象に含まれる。
●営業停止命令違反については、1年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金又はその併科
●虚偽報告、立入忌避等については、30万円以下の罰金
に処することとした(法21条及び24条3号)。
なお、現状、盗品と知りながら買受けを行っているような悪質な事業者はごく一部であることや、法が特定金属くず買受業を営む者に対して初めて法律上の各種義務付けを行うことを踏まえ、本人確認、本人確認記録の作成等及び取引記録の作成等の各義務違反に対する罰則は設けていない。したがって、仮にそれら違反が確認された場合には、指示処分等を行うことで違反状態の是正を図るとともに、悪質な違反に対しては、罰則が担保されている営業停止命令により対応することとなる。