涼井警部補の事件簿―弁護士・平野の視点から―

第1回 大麻所持の否認(黙秘)事件

涼井警部補の事件簿―弁護士・平野の視点から―
 薬院法律事務所 弁護士
 鐘ケ江かねがえ 啓司けいじ
警察公論」2026年8月号46頁掲載「涼井警部補の事件簿――先回りして“封じる”捜査」のアナザーサイド!
大麻所持の否認(黙秘)事件。
新任刑事が戸惑う中、被疑者と弁護人はどんな話をしていたのか。
担当弁護士の思考を解き明かす――
涼井警部補の事件簿 ―弁護士・平野の視点から―
第1回 
大麻所持の否認(黙秘)事件
平野良照弁護士は弁護士15年目の街弁である。普段は、交通事故や離婚事件など民事事件を中心として活動しているが、公益活動の一環として国選弁護人の登録もしている。今日は、事務所で民事訴訟の準備書面の起案をしていたところ、法テラスから電話がかかってきた。
法テラスのオペレーター
法テラスのオペレーター

麻薬取締法違反の被疑者国選弁護がきました。ご受任いただけますでしょうか。

(そういえば今日は国選弁護の当番日だったな……)
分かりました。FAXしてください。

平野弁護士
平野弁護士
数十分後、法テラスから平野の事務所に勾留状のFAXが来る。
平野弁護士
平野弁護士

甲山一郎、27歳、乾燥大麻所持か……。犯行日時が3日前なので職務質問からの現行犯逮捕かな? 初犯だといいけど……とりあえず行ってくるか。

平野は準備書面の作成を中断し、警察署に電話をする。被疑者が実況見分などで外出していないか確認し、カバンにノートパソコンを入れて警察署に出向いた。
 接見室 ――
平野弁護士
平野弁護士

(さてさて、どういう人が来るのやら。ヤバいタイプの人じゃないといいけど。)

接見室のドアが開き、筋肉質の細身で短髪の青年が入室してくる。平野は立ち上がって、アクリル板に名刺を押し付けながら挨拶をする。
平野弁護士
平野弁護士

(反社ではなさそうだなあ。)
甲山さんはじめまして、この度裁判所から国選弁護人に選任された平野良照と申します。私はあなたの権利を守るために選任されていますので、ここでお話をされることはあなたの許可なく第三者に話すことはありません。あなたの立場に立って、法的な助言をいたします。よろしくお願いします。

(じろりと平野を見る)
先生、こんにちは。早く出たいのでよろしくお願いします。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

(慣れた感じだなあ。)
そうですよね。こんなところ長くいたいものではないでしょう。今、私が知っていることは、あなたが甲山太郎さんであること、年齢が27歳であること、それにご住所と、この勾留状に記載されている大麻所持をあなたがしたという疑いで、あなたが今ここに勾留されているということだけです。色々と教えていただけますか。

はい。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

その前に、もし今の時点でまずこれを弁護士に聞きたいということがあれば教えてもらえますか。

どうやったらすぐ出られるかですね。前の時は弁護士さんがついてすぐに釈放されました。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

(前科があるのか……)
出られるかどうかは事案によるので、じゃあ詳しく事情をお聞きしますね。まず、この勾留状に記載された内容、あなたが3日前の夜に路上で乾燥大麻を所持していたということですが、これは間違いありませんか。

……間違いないんですけど……先生、俺、半年前に執行猶予付で判決もらったばかりなんですよ。大麻で。なのでなんとか不起訴にならないかと思っています。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

警察には、なんて話をしているのですか。

ズボンのポケットの中に知らないうちに入っていたと言っていますが、ポリからは嘘をつくなと言われています。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

なるほど。尿検査はされましたか。

しました。警察署に連れていかれて、最初は拒否していたのですが、強制採尿することもできると言われてしょうがなく出しました。陽性だったと言われています。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

なるほどねえ。なかなかキツイ状況ですね。何ができるか考えるために、いくつか事情を確認させてもらいますね。

こうして平野は、甲山から以下の4点を聴き取り始めた。

① 逮捕の経緯

職務質問や所持品検査の合法性など捜査手続に不備がないかチェックする。

② 押収物と証拠

押収された大麻の量・鑑定結果、さらには尿検査結果まで詳細を確認し、証拠の弱点を探る。

③ 被疑者の供述

逮捕から取調べまで被疑者が何を話したか把握し、自白があるか否か、否認の場合はその言い分を精査する。

④ 前科・生活背景

前科や家庭・職場の状況などを聴き取り、更生の余地や情状酌量の材料を集める。

平野弁護士
平野弁護士

なるほど。深夜2時頃に住宅街をその姿で歩いていたら声を掛けられたと……ちょっと気になるのはなんで警察官があなたに声を掛けたかですね。何か心当たりはありますか?

分かんないですけど、公園で大麻吸った後にうろうろしていたので、怪しいと思われたのかもしれないです。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

ここは今の段階だと分からないですね。どういう不審事由があると判断されたのか……起訴された場合に争点になるかもしれません。それで、職務質問に回答を渋っていたら、応援を呼ばれて、その場から走って逃げたけど先回りされたということですね。

はい。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

警察官に身体に触れられたりとか、服を引っ張られたりはしましたか。

触ってくるということはなかったんですけど、ガタイのいいポリが「手間かけさせんな。」とか怒鳴ってきました。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

なるほどねえ。それでパトカーに乗って警察署に行ったわけですね。

はい。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

パトカーに乗るときに抵抗はしましたか。

もうちょっと逃げられないなと思ったのでしていません。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

で、警察署の取調室で所持品検査をされたと。

はい。パケを見られて、大麻の残りが入っていたのですが、鑑定させてくれと言われて、なんか書類を書きました。それからしばらくして逮捕状を持って来られて、逮捕って言われました。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

なるほど。警察署に行った後、あなたは自宅に帰してくれと言うことはなかったのですか。

言ったんすけど、「結果が出るまでちょっと待ってて。」と言われて出られませんでした。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

尿検査はされなかったですか。

警察署で待っている間に出してくれと言われて出しました。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

断らなかったのですか。

嫌と言ったんすけど、ポリから「だったらフダ取ってやるよ。」と言われて、しょうがないと言って出しました。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

なるほど。今のところ聞いている限りでは、職務質問や所持品検査が違法であると争うのは難しそうですが、尿の提出が任意か否かは争える余地があるかもしれません。あなたもご存じでしょうが、今は、大麻は所持だけでなくて、使用も犯罪になっていますので、尿鑑定を理由に大麻使用(施用)罪も起訴される可能性がありますからね 1。検事に捜査の適法性を吟味するように釘を刺しておきましょう。

平野はここで話を止めて、考えを巡らせる。

(警察官の取り囲み方によっては、実質的逮捕といえる可能性もあるのではないか……防犯カメラ映像の証拠保全は考えられないか 2……しかし住宅街となると防犯カメラは民間住宅くらいにしかないかもしれない。そうだとすると検事に文書で申し入れをしておく方が保全できるか……)
平野弁護士
平野弁護士

パケの話ですが、もう吸った後であればほとんど残っていなかったのではないですか。

底の方に少し残っていただけですね。今考えたら逃げているときに捨てときゃ良かったんですけど。それ、関係あるんすか。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

あんまり微量の場合は「所持」の故意が怪しいといったことで、所持について不起訴とされることもないわけではないので。期待できるものではないですが。

衆議院法制局「弁護士のための新法令紹介(第504回)大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律(令和5年法律第84号)」自由と正義2024年10月号41-46頁

弁護人が、捜査段階で防犯カメラ映像を入手する手順として、宮村啓太『事例に学ぶ刑事弁護入門〔補訂版〕―弁護方針完結の思考と実務―』(民事法研究会・2018年)53頁以下

そうなんすね。それだと先生の見立てでは、俺は不起訴いけそうですか。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

そんな甘いものじゃないでしょ。大麻の前科で執行猶予中、職務質問で逃走、大麻所持、尿鑑定も陽性、まあ、普通に考えたら完全黙秘しても起訴という流れでしょう。ちなみにスマホのパスコードは教えていますか。

ポリからは言えと言われていますが黙っています。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

まあ、教えてプラスになることはなさそうですからねえ。黙秘権については、後で差し入れる被疑者ノートにも説明がありますので、読んでおいてくださいね。

先生、すぐに釈放ってわけにはいきませんか。嫁が自宅にいて、心配していると思うんですよ。小さい子供もいるしガサが自宅に入っても困りますし。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

もうガサ入れはされているんじゃないですか?

分かんないです。自宅にもパイプを置いてるので、ガサが入る前に処分したいんですけど。先生から嫁に連絡して部屋の掃除をするように言ってもらえますか。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

弁護士は証拠隠滅には協力できませんよ。私のバッジが飛ぶ。

……そうですかあ。釈放はなんとかなりませんかね。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

奥さんに身元引受書を書いてもらって、あなたにも証拠隠滅や逃亡をしないという誓約書を書いてもらった上で、勾留決定に対する準抗告をすることはできます。ただまあ、この事案だと釈放はまずされないと思ってください。

分かりました。今後の取調べはどうすればいいでしょうか。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

まあ、黙秘ですね。取調べ拒否ということで房から出ないというやり方もあります。無理やり連れていかれることもあるようですが、そこまでしないこともありますので。

こんな風に取調べで言ったらいいというのはありませんか。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

ないです。だいたい、仮にあっても弁護士は虚偽の陳述のそそのかしはできません 3。職務基本規程という弁護士の行為基準を定めたものに明確に記載されていますので、仮に破ったら私の身が危うい。

そうっすよねえ……分かりました。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

じゃあ、今から一度外に出て誓約書の書式を差し入れるので署名して指印を押してください。証拠隠滅や逃亡をしないという誓約です。

はい。

甲山
甲山
弁護士職務基本規程「第75条(偽証のそそのかし) 弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。」日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説弁護士職務基本規程〔第3版〕』(日本弁護士連合会・2017年)207頁
ここで平野は接見を終了し、事務所に戻った。
甲山の妻に電話をしたところ、やはり既に家宅捜索はなされており、パイプが押収されているということであった。勤務先にも大麻で逮捕されたことは伝えられており、勤務先では起訴されるか否か様子を見ているということであった。
翌日、面会の約束を取り付け、甲山の妻の身元引受書を添付して準抗告を行った。赤ん坊を抱いて弁護士事務所に来た甲山の妻は、憔悴しきった様子であった。
翌々日、準抗告が棄却されたのを受けて、平野は改めて甲山の接見に向かった。
平野弁護士
平野弁護士

こんにちは。予想どおり準抗告は通らなかったのですが、甲山さんはお変わりないですか。

一昨日は調べがあったのですが、ずっと黙っていたらポリが色々しゃべってきただけで終わりました。昨日は引き当たり捜査に行くと言われて、現場に行ってきましたが、帰ってからの調べは黙秘しています。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

お疲れ様です。まあ、警察としては黙秘のままで起訴できるように証拠を固めてこようとするでしょうね。勾留延長で23日間は捕まることは覚悟しないといけないと思います。その上で起訴されたら保釈請求ですね。

甲山は、しばらく黙り込んで頭を下げていたが、意を決したように顔を上げ、平野に対して問いかけた。 

俺、このまま黙秘していた方がいいんでしょうか。話した方が早く出られるということはないですか。ポリから「裁判官から厳しく見られるぞ。」と言われたりもしていて悩んでいます。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

そうですねえ。あくまで私の意見ですが、正直、自白しても釈放される事案とは思えないので、起訴された時点で罪を認めて保釈請求をするということも考えられます。捜査段階では不起訴の可能性に賭けて、あえて自分からは話さない方が無難じゃないかなと思います。捜査段階で自白していなかったからといって、それで量刑が大きく変わるというものではないです。組織犯罪で、積極的に捜査協力をしたといったことで量刑上考慮されることはありますが、大麻の単純所持ですからねえ。

同房の人から、再度の執行猶予というのがあると聞きましたが、それも無理ですか。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

同種犯罪で、前回から半年程度の再犯となれば、まず無理です。不起訴にならなければ有罪で実刑となる可能性が極めて高いです 4

分かりました。頑張ってみます。

甲山
甲山
栗木傑=中野浩一「『刑法等の一部を改正する法律』の概要」法律のひろば75巻9号(2022年)51-58頁1
「この改正項目は、(ア)再度の刑の全部の執行猶予を言い渡すことができる宣告刑の上限の引上げと、(イ)再度の保護観察付執行猶予の言渡しを可能とする改正から成るものである。
まず、前記(ア)については、現行法上、再度の刑の全部の執行猶予を言い渡すことができる刑期の上限は1年とされているものの(刑法25条2項)、猶予の期間内に再犯に及んだ者について、1年を超える刑期とする場合であっても、改善更生・再犯防止を図る観点からは、必ず実刑とするのではなく、社会内処遇を続けさせる方が適当な場合もある(注5)ことに鑑み、裁判所の処分の選択肢の幅を広げてより適切な処遇を可能にする観点から、その上限を引き上げる必要があると考えられる。」(53頁)
平野は、甲山の不安そうな表情から迷いを感じ取り、言葉を継ぐ。 
平野弁護士
平野弁護士

まあ、でもあなたの人生ですからね。あなたの人生の責任はあなたしか取れないわけで、私も警察官もあなたの人生の世話はできないわけです。最終的な決断はあなた自身でしないといけませんから。そこは、そうご理解いただければ。

そうですよね……先生が俺の立場だったらどうします。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

そうですねえ……

平野は腕を組み、顔を右上に向け、1分間ほど何事かを考えているようであった。 
平野弁護士
平野弁護士

私だったらですが……自分の中での「正義」に沿って行動しますので、奥さんと子供を守るために刑務所に行くわけにはいかないということを考えれば、今は弁護士さんを信じて黙秘するかなあと思います。まあ、なったことないので分かんないですけどね。

ありがとうございます。もう少し頑張ります。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

あなたがどういう選択をするにしても、私は弁護人として最善を尽くしますので。

ありがとうございます。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

検察官には、勾留延長がなされた後のタイミングで、捜査の適法性について疑義があることは述べておきましょう。仮に、警察で捜査の適法性に関する証拠保全が十分にできていなければ、起訴をためらう可能性があります。もちろん勾留延長に対する準抗告もしておきますので。

ありがとうございます。色々考えてくれて助かります。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

いえいえ。あとは、公開の法廷で勾留理由の開示を求める手続もあるのですが、これは直接身柄の釈放につながるものではないので、今回はしない方がいいかなと思っています。

ありがとうございます。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

ところで、刑事事件の結果がどうなるにしても、あなたの将来を考えたら大麻はやめないといけないなあとは思うので、そこも少しお話して良いですか。

「(5)例えば、窃盗を犯して執行猶予中の者が、再犯に及ぶことなく真面目に生活していたところ、過失により交通死亡事故を起こしたものの、示談が成立し、遺族も寛大な処分を望んでいるような場合などが該当し得る。」(57頁脚注)
甲山は少しだけ戸惑った様子を見せたが、平野の問いに返答した。 

はい。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

なんで、執行猶予期間中にまた大麻をやってしまったんですかねえ。

……ダメとは分かってたんですけどねえ。子供が生まれてから、夜泣きがひどいときに外に出てタバコ吸ったりしてたんですが、やっぱりスッキリしなくて、大麻だったらスッキリするのになあと思って、また手を出してしまいました。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

(夜泣きする赤ん坊を置いて出かけられたんじゃ奥さんも大変だったろうなあ。)
なるほど……それはキツかったですね。いくつか、薬物依存症を断ち切るための本がありますので、読んでみませんか? あなたが薬物依存か否かは私には分からないですが、やめられなかったのは事実なので。希望されるなら奥さんに頼んで差し入れてもらいましょう。中にいる間は時間が余っているでしょうから。

はい。

甲山
甲山
平野は、接見を終了し、甲山の妻に連絡を取った。平野が経験上役に立った本を伝え、差し入れるように依頼した 5。その上で、面会は無理しないで良いことと、一人で抱え込まないように周囲の助けを借りること、相談したいことがあればいつでも連絡して良いことを伝えた。甲山の妻も取調べに来るように呼ばれているということであり、平野は「参考人なので話しても話さなくても良いですが、嘘をつくことだけは絶対にやめてください。犯人隠避(刑法103条)といった疑いをかけられるおそれがありますので。尿検査も求められるかもしれませんが、その時は素直に応じた方がいいです。共犯といった嫌疑をかけられてはいけませんので。」とアドバイスをして電話を切った。
その後、甲山は勾留延長後、乾燥大麻の所持の公訴事実で起訴された。
松本俊彦『世界一やさしい依存症入門 やめられないのは誰かのせい?』(河出書房新社・2021年)、小早川明子(著)・平井愼二(監修)『やめたいのにやめられない 悪い習慣をやめる技術』(フォレスト出版・2020年)、ニュー・サイエンティスト=ヘレン・トムスン(著)、片桐恵理子(翻訳)『人生修復大全』(サンマーク出版・2023年)等
―― 起訴後 ――
平野弁護士
平野弁護士

こんにちは。残念でしたが、起訴されましたね。

はい。まあもうしょうがないです。覚悟はしていましたんで。それで、保釈はできますかね。同房の人からは難しいんじゃないかと言われています。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

まあ、難しいといえば難しいのですが、こういうのはやってみないと分かりません。

先生に教えてもらった本を読んで、自分でも心当たりがあることがあって、今回は本気で変わりたいと思っています。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

そう言ってもらえると私も嬉しいです。……ということは、自白事件として進めるということでしょうか。ひと月もしたら証拠開示が受けられるので、それを受けてから最終決断してもいいですよ。黙秘のまま保釈請求をすることもできますし。

ありがとうございます。でもそれはいいです。嫁にも心配かけましたし、会社の人にも迷惑をかけたので、ちゃんとやりたいと思います。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

分かりました。もちろん、証拠を見て、違法収集証拠が主張できる事案ならそれはそれで主張しようと思います。中にいる間に本を読んで感じたこととか、素直な気持ちがあればそれも書いてみてください。保釈請求の際の添付資料として使います。あと、費用の問題があるので難しいこともありますが、依存症治療のために入院するといった方法もあります。

ありがとうございます。

甲山
甲山
平野弁護士
平野弁護士

あと、公判での話ですが、少しでも服役の期間を短くした方が良いので、一部執行猶予を求めるということも考えています。一部執行猶予制度とはですね…… 6

甲山の表情は、初回の接見とはまるで異なり晴れやかなものであった。
平野は、接見を終え、「この家族がどうなるのか分からないけれども、前に進もうという気持ちになってくれて良かった。」と思い、事務所への帰途についた。「更生できるかは本人たちの問題だが、弁護人は前に進もうとする人たちに助力することはできる。」。平野はそう信じている。
一部執行猶予制度の詳細については、東山太郎「『刑法等の一部を改正する法律』及び『薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律』について」警察学論集66巻9号(2013年9月号)27-51頁。実務的運用については、大阪刑事実務研究会「刑の一部執行猶予制度に関する実証的研究」判例タイムズ1457号(2019年)5-19頁。
イラスト/安ヶ平正哉

 

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