テロと心理学(21)
ローンオフェンダーテロリストの分類と行動パターン(3)~アメリカのローンオフェンダーテロリスト~
ローンオフェンダーテロリストの分類と行動パターン(3)
~アメリカのローンオフェンダーテロリスト~
ローンオフェンダーテロリストの分析
組織化されたテロ集団によって計画され、その集団に属し、その集団で訓練あるいは洗脳を受けたものが行うテロに対して、特別な組織に属さないで、既成のあるいは独自の思想信条や社会に対する反発によって個人で勝手にテロを行うテロリストのことをローンオフェンダーテロリストといい、近年、世界中で大きな問題となっている。
従来のテロの場合、犯人の動機や行動を理解するためには彼らがよってたつ思想(例えば、イスラム原理主義やマルクス主義、もう少し詳しくいえば、ハマスやタリバン、革マル派や中核派などの特定のグループの思想)を理解することが必要であり、逆にいえば、これらの思想を理解すれば、彼らの戦略やターゲットを予測することも可能であった。しかし、ローンオフェンダーテロリストの場合、彼らのよってたつ思想が、ばらばらでかつ論理的であるとも限らないため、その理解は極めて困難となる。
そこで、ローンオフェンダーテロリストを理解するためには、ほかの犯罪と同様に、犯人をタイプ分けしてその行動を分析するのが有効な方法となる。本連載(19)と(20)(2025年9月号、11月号)では、それぞれ異なった観点からのローンオフェンダーテロリストの分類について述べてきたが、今回は、アメリカ連邦捜査局(FBI)の国立暴力犯罪分析センター(NCAVC:National center for The analysis of violent crime)による分析について概観してみたいと思う。
国立暴力犯罪分析センター(NCAVC)とはどんな組織か
本題に入る前に、まずアメリカの国立暴力犯罪分析センターについて軽く紹介しておこう。この組織は、1984年に設立されたFBIの一部門で、FBIアカデミーのあるバージニア州クワンティコにある。暴力犯罪逮捕プログラム(ViCAP:Violent Criminal Apprehension Program)や行動分析ユニット(BAU:Behavioral Analysis Unit)などのいくつかのユニットから構成されていて、犯罪者の行動分析と犯罪プロファイリングを利用して暴力犯罪の捜査を支援する組織である。設立当初は、全米を移動しながら活動する連続殺人犯人の行動を分析し、検挙することが目的であった。というのも、連続殺人犯(とくに秩序型といわれるタイプの連続殺人犯)は、事前の人間関係がない初対面の人を連続して殺害するため、検挙が困難で、かつ、町や市、州をまたいで移動することも多いので、自治体警察として独立性が高く、管轄が制限されているアメリカの警察システムでは検挙が難しかったからである。
現在ではそれに加え、誘拐、児童性犯罪、爆弾テロ、ホワイトカラー犯罪など、個々の自治体警察では対処が困難な事件を中心に犯罪の分析と捜査支援を行っている。組織内には十分な捜査経験を持ち、かつ、犯罪学、心理学、法医学などの専門知識を持った職員が配置されており、大学の研究者などと共同して、アメリカ全土で問題になっているさまざまな犯罪についての分析と研究も行っている。近年では、「学校内銃乱射」事件の研究レポートなどを公刊している。
この組織が現在、最も注目している犯罪類型のひとつが「ローンオフェンダー」である。というのも、NCAVCは、2009年に21人のローンオフェンダーテロリストについて分析した調査レポートを一度、発行したが、2019年になって、より多くのローンオフェンダーテロリストの分析を加えてその改訂版を発行しているからである。この改訂版のレポートは、アメリカ国内で1972年〜2015年までに単独でテロを行った52人のローンオフェンダーテロリストについてその属性、行動、そして周囲の人間関係などについて分析している。本論はこの最新版のレポートを中心に論じるものである。
ローンオフェンダーの属性
1 ローンオフェンダーの年齢は他の犯罪に比べ高い
このレポートでは、まず、この52人のローンオフェンダーテロリストの年齢分布について検討されている。通常の犯罪は年齢と密接に関係しており、例えば、暴力犯罪の頻発年齢は20代である。テロに関してもイスラム過激派テロリストの平均年齢は、26・3歳であり、これらの年齢をピークとして分布している。しかし、ローンオフェンダーテロリストは、年齢層が15歳~88歳と広範囲にわたっており、年齢分布も比較的フラットである。平均年齢は37・7歳であった。つまり、他の犯罪と比べ、ローンオフェンダーテロリストは年齢が高い傾向にある。
2 ローンオフェンダーはすべて男性である
NCAVCが収集したアメリカのローンオフェンダーテロリストのケースのすべてが男性によるものであった。女性ローンオフェンダーも存在する可能性はあるが、極めて稀であり、これは他の国のデータとも一致している。
3 ローンオフェンダーの多くは白人である
NCAVCのデータのひとつの興味深い点は、ローンオフェンダーテロリストの中には白人が多かったということである。具体的には、白人65%、イスラム系13%、アフリカ系8%、混血8%、アジア系4%、ヒスパニック系2%である。これはアメリカにおいて一般犯罪で検挙されるものの中にアフリカ系とヒスパニック系が多いことから見ると非常に興味深い。
4 ローンオフェンダーは独身である
ローンオフェンダーの48%が独身であり、23%が離婚又は別居中であった。つまり全体の71%が犯行時、交際相手がいなかったことになる。一般に同居の家族や配偶者、パートナーの存在は犯行を抑制する方向に働くため、彼らが犯行を起こした原因のひとつはこれらの存在がいなかったためかもしれない。既婚者およびパートナーと同居しているものは25%にすぎなかった。
5 ローンオフェンダーの学歴は高い
ローンオフェンダーの75%が準学士以上の学歴をもっており、37%は大卒以上、14%は修士号や博士号を所有していた。これらは明らかにアメリカ国民一般の水準よりも高く、ローンオフェンダーの学歴は高いといえる。
6 ローンオフェンダーは無職である
ローンオフェンダーの54%が無職であり、就労も通学もしていなかった。就労者のうち、半数だけがフルタイムの学生であり、残りはパートタイムであった。
経済的に自立できているのは37%で、家族から、あるいは公的支援を受けているケースが多かった。ローンオフェンダーが無職であることが多いというのもしばしば指摘されてきたことである。これは、彼らが独身であるということも含め、対人的な接触が極めて限られてしまっているということを意味し、彼らの暴力的な思考を増幅させた可能性がある。また、もちろん経済的な苦境はそのまま生活ストレスとなるため、これも彼らを犯罪に駆り立てた原因である可能性がある。
7 ローンオフェンダーは過去に暴力的な問題を起こしている
ローンオフェンダーが前科を持っていたケースは70%で、彼らの半数以上は2回以上検挙されていた。平均逮捕件数は2・7回であった。少年時のデータは収集するのが難しいが、データが得られた34件のうち9件(26%)は少年期にも検挙歴があった。前科のうち29%は暴力犯罪、33%は薬物濫用であった。ただし、実際には検挙されていない暴力事案や問題があった可能性も大きいため、個々のテロリストに対してより詳細な調査を行ったところ、かなり多くの(83%)ローンオフェンダーが、過去に暴力的な問題(攻撃、脅迫、感情の爆発)などを起こしていることが分かった。これらは、彼らが問題を解決する手段として暴力を選択するということを学習してきたことを意味している。
8 ローンオフェンダーは精神疾患ではない
ローンオフェンダーの中で事件前に精神疾患の診断を受けていたものは多くない。全体の25%程度である。これはローンオフェンダー行為が極めて異常なことから見ると、驚くべきことかもしれない。彼らの診断名で最も多いのは感情障害(うつ病など)で17%、統合失調症は8%である(ちなみに感情障害については、アメリカ人男性の平均値とほとんど変わらない、統合失調症は平均よりも高い)。また、違法薬物を使用しているものもいるが、使用薬物の多くはマリファナで、その割合は一般成人と余り変わらない。
ただし、もちろん、彼らに病識がなく、単に精神科などを受診していなかった可能性もある。友人や知人などを調査すると周りの人(友人、家族、同僚など)が加害者の精神疾患を疑っていたケースは、35%程度あった。しかし、いずれにせよ、これらは多くの人が想像するよりも控えめな数字である。
9 ローンオフェンダーはパラノイア的な思考パターンを持つ
しかし、彼らが精神的に健全であったというわけではない。ローンオフェンダーの行動、文章、オンラインの発言などを分析したところ、62%がパラノイア的な思考パターンを持っていたことが明らかになった。
これは、他者に対する根深い不信感や疑念、他者が自分に対して危害を加えようと思っているという信念(敵意帰属傾向)があることを指す。他者は特定の個人だけでなく、政府や集団なども含み、場合によってはこれが陰謀論と結びついていた。
10 ローンオフェンダーは誇大妄想を持つ
彼らの35%が、誇大で非現実的な自己認識、つまり自分が他者よりも優れているという信念を持っていた。実際にはほとんどのローンオフェンダーがこのような兆候をもっていた。
11 ローンオフェンダーには自殺念慮を持つものはいるが、それだけから襲撃中の自殺(死亡)は予測できない
彼らのうち、自殺念慮をもっているもの、つまり、犯行前に自殺を試みたり、自殺をほのめかしたりしたものは40%であった。ただしこの中で、自爆攻撃や襲撃中に死亡したものは33%にすぎず、これは興味深いことに自殺念慮をもたないローンオフェンダーの死亡率65%よりも低い。ということは、自殺念慮をもっていたり自殺未遂を起こしたりしたことのあるローンオフェンダーであっても襲撃中に死亡したり、自爆したりするとはいえないことを意味する。
12 ローンオフェンダーは強いストレスを抱えている
彼らの多く(69%)が特定可能な強度なストレスを抱えていた。このストレスは、自分が不当、不正な扱いを受けたというものや、自分が属する集団等が不当に差別されているという認識から発生しており、このストレスを暴力的に解決しようと彼らを動機づけていた。
ストレス源としては、経済的な問題(48%)、家族の問題(44%)、精神的な問題(44%)、仕事上の問題・雇用問題(35%)、法律的な問題(29%)、夫婦関係(27%)、健康上の問題(19%)などが襲撃の1年以内に生じていた(このストレス源については本人でなく、周囲の関係者の認識である)。
13 ローンオフェンダーの怒りは個人的なストレスとイデオロギーの合体したものである
彼らの攻撃は何らかのイデオロギー的目標のためという建前で行われるが、実際に、そのイデオロギーのためだけにテロを実行するわけではなく、個人的なライフストレスがイデオロギーと合体して彼らをテロに動機づけている。
14 ローンオフェンダーが援用するイデオロギーは、多い順に①反政府思想(25%)、②人種差別に関する過激主義(23%)、③イスラム過激派(19%)、④プロライフ派(10%)、⑤エコテロリズム(4%)そして、⑥その他(19%)である
反政府思想は、現政権の腐敗糾弾や、政府が人々の権利を不当に侵害しているという主張、アナーキズム、陰謀論、新世界秩序などに関係するものである。
人種差別に関する差別主義の多くは白人優越主義で、この中にはアメリカ政府がマイノリティーと共謀して、白人の滅亡を画策しているといった陰謀論も含まれる。もちろん、アメリカ社会における現実の、あるいは認識された差別に対してのプロテストが動機のものもいるが、こちらはむしろ少数派である。
イスラム過激派については、アルカイダやイスラム国などの外国テロ組織に触発されたり、あるいは、緩やかな(ネットなどを通じての)つながりを主張したりするものであるが、ローンオフェンダーテロリストの場合、実際に、これらのテロ組織から直接の命令は受けていない。彼らはいわゆるホームグロウンテロリストである。
プロライフ派というのは、アメリカの主要な政治的な論点である人工妊娠中絶に対する問題と関連している。この問題については、プロライフ(pro-life)派とプロチョイス(pro-choice)派が対立している。プロライフ派とは、胎児の命を尊重し、中絶に反対する立場のことを指す。人工妊娠中絶を「命を奪う行為」とみなして禁止や制限を求めることが多く、キリスト教原理主義を中心に支持されている。プロチョイス派とは、女性の権利として、妊娠の継続や中絶を自分で選択する権利を重視し、中絶の合法化や自由な選択を支持する立場である。リベラル層やフェミニストを中心に支持されている。両者とも過激な論者はいるが、テロを行うのは圧倒的にプロライフ派が多い。
エコテロリズムは、過激で暴力を伴った環境保護運動のことである。その他の思想には、特異で分類困難な信念や思想によるものが含まれている。
個々のテロリストの主張を見てみると、いくつかの領域にまたがっているケースも少なくなく、例えば、白人至上主義と反政府陰謀論などが結びついているケースがある。
15 ローンオフェンダーは、1年以上前からそのイデオロギーを信奉しており、急激に過激化するケースは多くない
彼らはテロの理由づけに何らかのイデオロギーを援用するが、そのイデオロギーに彼らが関わり始めたのは、94%以上が1年以上前からである。ある思想に感化され、急激にテロを引き起こすケースは、ほとんど存在しなかった。
16 ローンオフェンダーは、メディアに影響されている
彼らの多くが、イデオロギー的なメディアから情報を得ており、そのプロパガンダ情報から影響を受けている。書籍、パンフレット、ニュースレターなどの印刷物やCD、テープ、有料講演などがその媒体である。もちろん、2000年代以降は、その主役はインターネットに移行している。
31%のローンオフェンダーは他のローンオフェンダーテロや信奉するイデオロギーに関連する過去のテロから明らかに影響を受けていた。
17 ローンオフェンダーは、世間からの注目を意識している
ほとんど(96%)のローンオフェンダーは世間に閲覧されることを意図した文書又は動画を作成していた。そのうち48%は、事前にそれらのコンテンツを公開し、44%は事前、事後に公開した。襲撃後にのみ公開したのはわずか8%にすぎなかった。これは、ローンオフェンダーの襲撃には予告や前兆があることを意味している。ケースによっては、予告が数か月、数年前からなされているものもあった。コンテンツの内容の80%は、自身の不満や行動の真の意味についての説明、個人的な経験や意見であり、コンテンツは手紙の場合、報道機関やメディアに送られた。近年ではコンテンツの公開先はもちろんインターネットに移行しており、ブログやエッセイ、マニフェストなどの形で公開された。
ローンオフェンダーの行動
18 ローンオフェンダーのターゲット選択は直接的な対象のみではなく、象徴的な対象になることがある
ローンオフェンダーが攻撃対象とするのは、自らの目的やイデオロギーと密接に関係したもの(例えば、プロライフ派の中絶クリニックや白人至上主義者のアフリカ系施設への攻撃)(73%)だけでなく、単に象徴的な価値に基づいて選択される場合(47%)、メディアへの注目を浴びるために選択される場合がある。
19 ローンオフェンダーのターゲット選択においては、ターゲットの警備状態が影響する
ローンオフェンダーのターゲットの多くは、警備が薄いか、まったくないものである(79%)。犯人のターゲット選択パターンについて詳細に分析できた36件のケースのうち、18人(50%)が、ターゲットへのアクセス容易性を基準として、それを選択していた。これは、少なくとも警備がターゲットを防御するためには有効に働くことを意味している。しかしながら、ターゲット襲撃後に逃走を試みる犯人にとっては、これは重要であるかもしれないが、もともと襲撃で死ぬことを決意している犯人にとっては、警備は意味を持たない可能性、あるいは注目を浴びるという意味では逆効果である可能性もある。
20 ローンオフェンダーは合法的に入手した銃を使用する
テロというと自爆テロの印象が強いが、アメリカのローンオフェンダーが使用する武器で最も多いのは銃器である(65%)。ついで爆弾(25%)、飛行機・車両(6%)、刃物(4%)である。銃器使用者のうち77%はピストル、40%がライフル、20%がショットガンである。このうち、合法的に銃を入手したものは69%、違法に入手したものが19%であった(他は借りた、もらった、盗んだなど)。爆発物を使用する場合、79%が犯人自ら爆発物をターゲットのところまで運搬しており、29%が第三者を利用した。
21 ローンオフェンダーは逮捕される
ローンオフェンダーのうち、62%は逮捕された。逮捕されたもののうち、38%は現場で、25%は即日検挙された。法執行機関に射殺されたのは23%、自殺したのは15%である。無差別大量殺傷犯人の場合、自殺率が高いので、検挙されるかどうかは犯人がテロリストであるか、無差別大量殺傷犯であるかを区別する重要なポイントであるかもしれない。
ローンオフェンダーの周囲の人間関係
22 ローンオフェンダーの周りには、同様の暴力的過激思想を持つものがいる場合がある
4で述べたように彼らは独身であり、かつ孤独であることが多いが、必ずしも孤立しているとは限らない。ネット関係の交流を含めれば、彼らの71%が一人以上の友人がいると自覚している。これらの関係は一般的には過激化を抑制するが、彼らのうち35%には、彼らと同様な暴力的な思想を持つものがいた。このような場合、過激化が逆に促進される可能性がある。
23 ローンオフェンダーが独居の場合はそれほど多くない
ローンオフェンダーは独身であることが多く孤独ではあるが、生活形態としては、独居の場合は39%で、家族と住んでいる場合(39%)、ルームメイトや他人と住んでいる場合(14%)もあり、物理的に孤立しているわけではない。これらの同居者は、22のようなケースでは過激化を促進するが、そうでない場合、過激化の兆候を事前に把握できることになる。
24 ローンオフェンダーは過去に暴力的過激派団体に所属したことがあるが、それらの集団から拒絶された経験がある可能性もある
ローンオフェンダーの44%は、過去にイデオロギー運動に参加していたことがあるか関与していた。このうち約半数は、過去一年の間に暴力的な思想を持つ団体と関係しており、残りは非暴力的だが特定のイデオロギーを持つ集団と関係していた。一方で彼らは、テロを行ったときはこれらの団体に所属しておらず、かつ彼らは特定の個人や集団からの拒絶経験(71%)を持つことが多いので、これらの集団でも上手く適応できなかった可能性がある。
アメリカのローンオフェンダーテロ分析の我が国への適用
以上、NCAVCによるアメリカのローンオフェンダーテロリストの分析について、要約して解説してきた。これらのリストを見ると、凶器の選択などを除けば、我が国におけるローンオフェンダーとも共通する点が多く見られるようだ。これは、犯罪に関して我が国よりも数年先行しているアメリカの現状を見ることによって、日本の将来のローンオフェンダーテロの発生形態についても、ある程度、予測できる可能性を示しているかもしれない。また、アメリカのローンオフェンダーテロリスト対策の成否を見守っていくことが、我が国のテロ対策にも非常に有用であることを示していると思われる。