テロと心理学(19)

ローンオフェンダーテロリストの分類と行動パターン(1)

テロと心理学(19)

ローンオフェンダーテロリストの分類と行動パターン(1)

法政大学教授  越智 啓太

ローンオフェンダーテロリストとは何か
 警視庁は、本年、ローンオフェンダーテロリスト対策のために、公安部に専門の担当課を新設することを発表した。ローンオフェンダーテロリストとは「組織に属さず単独でテロを行うもの」をさす。
 ローンオフェンダーテロについては、海外では以前から議論されてきた。はじめは「ローンウルフ」という名称で論じられていたが、ローンウルフという名称は、どちらかといえば「かっこよく」、テロ行為を美化しているということから、専門家の間では、あまり評判のいい言葉ではなかった。実際、テロリストの中には自分や自分の行為を美化するためにこの言葉を使うものもいた。日本でも首相官邸ドローン墜落事件においては犯人は自分のことを「ローンウルフ」と自称していた。
 このようなことから、イギリスなどヨーロッパのテロ専門家を中心としてより価値中立的な「ローンアクター」という名称が使用されるようになった。一方、ほぼ、同様の理由から、アメリカのおもにマスコミにおいては、「ローンオフェンダー」という名称が使用されるようになった。アメリカでは近年は専門家や公式な報告等でもローンオフェンダーという名称が使用されるようになり、日本ではおそらくアメリカの影響によりこの名称が使用されるようになったものと思われる。
 ローンオフェンダーテロについては本連載第7回(2023年1月号)において「ローンアクターテロ」として、すでにその概要を説明しているので、そちらも参照していただくとして今回は、さらに詳細にこの現象、とくに犯人が、そもそもどのような心理でテロを実行するようになるのかについて検討してみたい。

そもそもテロとはどのように定義されるのか
 ローンオフェンダーテロは、いわゆる無差別大量殺傷事件(例えば、秋葉原大量殺傷事件、新宿駅西口バス放火事件など)や通り魔事件(例えば、深川通り魔殺人事件など)と非常に類似点が多く(無差別大量殺人については、本連載第5回(2022年8月号)も参照)、マスメディアなどではあまり区別して用いられていないが、実際にはひとつの大きな違いがある。それは、そもそも、それがテロなのか犯罪なのかということである。これについて明確にするには、テロをどう定義するのかが問題になる。
 多くの研究者は、テロかそうでないかはその行為に「大義」があるかどうかが重要であると考えている。「大義」というのは、その行為が自分の欲求や怒り、復讐感情に基づくものでなく、その行為をすることによって、少なくとも犯人の頭の中では、世界が良い方向に変わっていくと考えていることである。
 つまり、単に自分の不幸を社会の責任だと考え、自分をこんな目に遭わせた社会に復讐してやろうと考えて行う大量殺傷はあくまで犯罪であり、たとえ、外形的には同じ行為であっても、その行為をすることによって社会が変化し少しでも良くなっていくために、自分が先兵あるいは犠牲になると考えていればそれはテロと考えられる。犯罪はどちらかといえば後ろ向き、過去に囚われたものなのに対して、テロは前向き、未来を指向したものである。
 このような違いは実際の犯人の行動にも影響する。一般的な傾向としては犯罪としての大量殺傷犯の動機は抑えられないほどの怒りであり、犯罪終了後は、自分の人生はこれで完結したとして自殺したり、検挙されても死刑になることを望み、最後まで反省しないことが多い(例えば、大阪教育大学附属池田小学校における大量殺傷事件)。これに対して、テロリストの動機は、より理知的で冷静であり、(良い世界を実現するのは継続的な行動が必要なので)事件後に逃走し、次の犯行を計画、実行することが多く、検挙されても裁判等で、自分の主張(理解不能なものも少なくない)や理屈を繰り返すことが多い。

ローンオフェンダーテロの原型としてのホームグロウンテロ
 ローンオフェンダーテロリストは、現在では従来のテロ組織とは関係ない自分勝手な理由でテロを行うものとして捉えられがちであるが、そもそもは、従来のテロ組織とある程度の関係性を持っていることが多かった。というのも、彼らが「大義」として受け入れる考えは、従来のテロ組織の理論そのものであることが多かったからである。
 ホームグロウンテロリズムがその一例である。ホームグロウンテロリストとは、ご存じのとおり、アメリカやヨーロッパ(等)の国で育ったもともとその国に合法的に居住しているものが、国内でテロを行うことである。
 9/11テロ以来、イスラム過激派テロリストやそこで訓練を受けたテロリストは、アメリカやヨーロッパなどに入国することが困難になったことから、イスラム過激派はインターネットなどによって、そもそも入国する必要がない「ホームグロウン」な人に過激思想を植え付け、「覚醒」させることによって、テロリストにすることを試みてきた。そして、この試みはかなりの程度うまくいっている。
 9/11テロの直後には、アメリカのイスラム系住民、とくに若者は、彼らの人種や外見、宗教などによって差別を受けてきており、彼らには一種のアイデンティティの危機が生じていた。「自分はアメリカで生まれたアメリカ人だと思っていたが、イスラム系というだけで差別される。一体自分は何者ものなのか」というわけである。イスラム過激派グループは、このような状況を逆手にとって、自分を差別の対象にしたり、虐げているアメリカ国家への怒りを煽り、洗脳してテロリストに仕立て上げたのである。もちろん、テロの方法(とくに爆弾の作り方や設置方法)については、やはりインターネットを通じて詳細に(動画なども使って)伝達した。これらの情報に触れた多くは、もちろん、テロを起こすまでには至らなかったのであるが、インターネットを通じた情報拡散は非常に広範囲、大人数に渡ったため、ごく一部の扇動された人々は実際にテロを引き起こしてしまったのである(例えば、ボストンマラソンにおける爆破テロ)。
 彼らは、テロ集団の正式な成員であるわけでなく、それらの組織の集会や作戦会議に出たわけでもなく、組織から戦闘員として選定・訓練されたわけでもない。ある意味、勝手に覚醒し、勝手に憤り、勝手にテロを行っているわけである(一部のものは、勝手に憤った後でテロ集団やテロ指導者、リクルーターとメールなどの手段によって個人的に接触し、そこでさらに過激化してテロリストとなる)。
 便宜上、このタイプをタイプ1のローンオフェンダーテロリストと呼ぶことにしよう。図式的に示すと以下のようになる。

非イスラム文化圏に住むイスラム系住民に対する差別や偏見等
→イスラム過激派思想の学習と自らの立場の合理化
→社会を是正したり正義のために立ち上がる(聖戦を戦う)ことを決意
→テロの方法を学習し実行

人がテロリストになるプロセスとしては、以下のように一般化できるが、前記のプロセスもこれと同様である。

    社会不満:差別などによって社会に対する困惑や憎しみが生じる
理論化:社会不満の原因を正当化する理論を学ぶ
動機づけ:社会を是正するために自ら行動することを決意する
実行:テロの方法を学び実行する。

異なっているのは、従来のテロリストが理論化や動機づけ、実行のプロセスを組織に所属することで、ほかの所属メンバーとの議論や交流の中で集団力学的なプロセスを通じて身につけていった(例えば、日本の左翼テロリストはセクトに所属し、その中で人間関係を通じて、徐々にテロリストになっていった)のに対して、ホームグロウンテロでは、このプロセスがインターネットやメールなどで代替され、他人と交流することなしにテロリストを作り上げることに成功していることである。

タイプ1のローンオフェンダーテロリストの依拠する理論は既製品
 このタイプのテロリストが依拠する理論はそもそも既製品であり、組織としては、この既製品の理論をどのように、効果的に信じさせるかが重要であった。既製品の理論とは、イスラム過激派テロにおいてはイスラム過激思想や聖戦についての各テログループの公式な見解だったし、左翼テロにおいてはマルクスやトロッキーの理論、各セクトの公式見解だった。
 個人が集団に属さないままテロリストになることから、従来の集団の意志決定によるテロに比べ、誰がいつテロを起こすのかは予想が困難なのは確かである。しかし、彼らの依拠する理論が既製品であり、彼らを手足にする組織がある程度彼らの行動をコントロールしていることから、行動パターンやテロ手法、テロのターゲットとなり得るイベントや対象は予測可能なものであった。また、テロ事案が発生した場合にもその犯人はどのグループに影響を受けているのか、背景にある主張は、ある程度推測可能であった。つまり、従来の警備手法、捜査手法はまだ使うことができた。
 ところが、近年、このタイプのテロではなく、その一種の進化形ともいえる新たなローンオフェンダーテロリストの形態が現れてきた。

陰謀論を元にしたタイプ2のローンオフェンダーテロリスト
 このタイプの最大の特徴は、社会不満→理論化のフェイズにおいて彼らが依拠する理論が従来存在するテロ組織の理論ではないところにある。つまり、彼らは「イスラム過激派」とか「革共同革マル派」などではないのである。彼らは、この理論を全く別の文脈から持ってくるのである。
 では、この理論をどこからもってくるのであろうか。もっとも大きな源泉は、インターネットの中で飛び交っている陰謀論である。この陰謀論が彼らの行動のよりどころになる。
 陰謀論とは、世界を影で操っている個人や団体が世界中の様々な事象を引き起こしており、その事実は世間からは隠蔽されていると考える思想のことである。影の勢力としては、ユダヤ人、フリーメーソン、イルミナティ、カソリック教会などがあげられることが多い。近年ではQアノンが代表的である。彼らが引き起こした事件としては、古くは、ケネディ大統領暗殺やアポロ宇宙船による月面着陸(ねつ造であると言われる)、最近では、9/11テロ、コロナパンデミック、ワクチン接種などがあげられる。
 そして、世界を平和にするためには(あるいは経済的に豊かになる、資本家の搾取をなくす、パンデミックを防ぐなどすべての悪い出来事をなくすためには)、これと戦い倒す必要があるというのだ。
 陰謀論は、単純な勧善懲悪の構造をとり、極めて単純なので、学習、習得が容易である。そして、一旦、ある陰謀論を理解すると、世界で起きていることの多くが「説明可能」になり、「腹落ち」してしまう。
 いままでテロリストが依拠してきた理論はじつはかなり複雑なものが多かった。例えば、左翼思想はそもそも学習し、理解するのが困難であり、また様々な論点、異なった解釈が存在した(それゆえに、セクト分裂が発生した)。そのため、左翼テロリストが個人で勉強してその理論を理解し、テロリストとして社会変革に参加するようになるのは、かなりの忍耐と努力、知性が必要だった(それゆえ、この運動はおもに大学生によって担われた)。もちろん、左翼テロがもっとも多く発生した70年代は、インターネットや動画やわかりやすい教材は存在しない。そこで、彼らは組織に属して長い教育期間を経てテロリストになっていくしかなかったのである。
 ところが、陰謀論はこれらが一切不要である。忍耐や知性や予備知識がなくても、独習で簡単に「世界」を理解することができ、その改革に自ら参加することができるのである。このようにして、陰謀論のいう「正義」のために個人やグループで立ち上がるのが、タイプ2のローンオフェンダーテロリストである。図式的に示すと以下のようになる。

    社会不満:自分の生活がうまくいっていないなどの不満やストレス
理論化:陰謀論などの単純化された理論に基づいて世界を理解する
動機づけ:社会を是正するために自ら行動することを決意する
実行:テロの方法を学び実行する。

認知的バイアスとタイプ2のローンオフェンダーテロリスト
 タイプ2のローンオフェンダーテロリストが作り出される過程では、いくつかの認知的バイアスも働く。例えば、以下のようなものである。

(1) ダニング=クルーガー効果:知性の低い人は自分の能力を過大評価しがちであるという現象。自分が無知であるということに気づかないため、陰謀論のような過度に単純化した理論を素直に受け入れやすい。一度、陰謀論を受け入れると、それを知らない人々に対して優越感を抱くようになる。
(2) 自己確証バイアス:人は自分の信念と合致する情報のみを受け入れるという現象。陰謀論についていえば、一旦、ある陰謀論を信じてしまうとそれと矛盾した情報を軽視したり、受け入れなかったり、陰謀論にあわせて情報を変形したりする。そのため、自分の誤りに気がつかないまま、逆に自分の考えの正当性が補強されていく。
(3) 属人化バイアス:物事の原因はある特定の個人や団体にあると考えてしまう現象。実際の社会現象は特定の個人や団体というよりは複雑な社会的な関係性の中で生じてくるにもかかわらず、(それを理解するのは難しいので)「悪の権化」の個人や集団を設定し、そこにすべての責任を帰してしまう。
(4) 錯誤帰属:普段感じる、不満やストレス、イライラなどのネガティブな感情について、実際はその人の個人的問題なのにもかかわらず、(人間はそもそも、感情が生じた実際の原因を把握することがあまり得意でないため)陰謀論的な世界構造がそれを引き起こしていると考えてしまう。例えば、自分が仕事ができないために職が見つからなくてイライラしているにもかかわらず、そもそもユダヤ人結社が金持ちだけを優遇する社会を作ったから自分はイライラしているんだと考えてしまう。
(5) レッテル貼りと行動抑制解除・極端化:自分の行動に「正義のため」、「社会のため」というレッテルを貼ることによって、人はより極端で残忍な行動が平気でできるようになる。

我が国における陰謀論的思考とローンオフェンダー
 陰謀論は、海外だけの現象ではなく、もちろん我が国でも流布しており、これに基づくテロ事件も発生している。近年では、安倍晋三元首相暗殺事件に関しても、犯人は、安倍元首相がすべての社会悪を引き起こしている元凶であるといった陰謀論的な考えに基づいて行動した可能性がある。スタート地点は、宗教二世であるために自分の生活がうまくいっていないというところにあるのだが、陰謀論と属人化バイアスなどの認知バイアスによって安倍元首相暗殺といった方向に行動が形作られてしまったのである。この事件では当初、犯人の攻撃対象は統一教会のハン・ハクチャ総裁であったが、いざ、テロを実行しようとする段階で、ターゲットを変更している。しかも、安倍元首相については、「本来の敵ではない」とまで言っている。ローンオフェンダーテロリストでは、このような現象がしばしば見られるが、これはそもそも、自分のテロについて考え抜いていないことに原因がある。考え抜いていれば、この件のような理解に苦しむようなターゲット変更は行われないであろう。
 問題なのは、安倍元首相に関するこのような単純化された思想を左翼勢力がさかんに煽っていたということである。実際、直前まで公然と「アベシネ」的な言動を行っていたのである(いうまでもなく属人化バイアスである。事件後には、彼らは自己批判せず、矛先を統一教会や統一教会と自民党との不健全な関係に向け、世間を誘導することに成功している)。
 このような陰謀論の利用は、もちろん、左翼だけでなく、右翼や様々な政治的なグループにおいてもよく見られるものである。彼らは、自分の都合の良い形に改変した陰謀論を利用して、人々を操ろうと試みるのである。

自己流世界観を元にしたタイプ3のローンオフェンダーテロリスト
 ここまで、2つのタイプのローンオフェンダーテロリストについて述べてきたが、じつはさらに新たなタイプのローンオフェンダーテロが生まれつつある。タイプ1のテロが既製の理論、タイプ2が陰謀論を元にしていたのに対して、新しいタイプでは、完全に自分オリジナルな世界観を元にテロを計画して実行するのである。彼らの理論はつじつまが合っていなかったり、理解困難で幼稚なものであることが少なくない。
 タイプ1にしろ、タイプ2にしろ、元になる理論を学習するプロセスは必要であった。タイプ1ローンオフェンダーテロリストは典型的にはネットなどで過激派の理論を学習し、タイプ2ローンオフェンダーテロリストも陰謀論についての書籍やネット情報などで理論を学ぶ必要があった。しかし、タイプ3テロリストはこのような学習過程を経ないで、勝手に頭の中でオリジナルな世界観を構築し、自分なりの悪の権化を作り出して、自分なりにテロを行ってしまうのである。これを図式的に示すと以下のようになる。

    社会不満:自分の生活がうまくいっていないなどの不満やストレス
理論化:社会不満の原因を正当化する理論を自ら作り出してしまう(もちろん、短絡的で幼稚な理論である)
動機づけ:社会を是正するために自ら行動することを決意する
実行:テロの方法を学び実行する。

    彼らの多くは、プライドが高いが、孤独であり、実際には知識はないにもかかわらず、自分は頭が良くて他人はみな頭が悪いと思っている。そのため、他人から何かを学ぼうとするのでなく、自分の考えを元にして自分勝手なテロ理論を構築してしまい、それに基づいてテロを実行するのである。
 このタイプの代表的なテロ事件としては、相模原障害者施設殺傷事件や厚生労働省元事務次官夫妻殺傷事件、首相官邸ドローン墜落事件などがある。
 タイプ3のローンオフェンダーテロの恐ろしい点は、予測が極めて困難な点である。自分勝手でオリジナルな理論が元になっているため、事件前には、誰が、どのような理由で、どのような対象に対して、どのような方法でテロを行うかがわからない(しかも、しばしば、奇想天外なものとなる)。
 彼らの多くは孤立しているため(一定数、社会的地位や人間関係を持っているものもいる)、以前のように人間関係や組織内での情報などから、犯行を事前察知することはできない。ただし、彼らは自分の過激思想を自分の中にとどめず、ネットで披露したり、X(旧Twitter)などSNS上でターゲットを攻撃・脅迫したり、小規模な予行演習などをする可能性はある。このような情報を事前に把握することがタイプ3のローンオフェンダーテロの唯一の予防法であろう。
 ただし、ネットに不穏なことを書き込むものは現在、限りなく多い。この中で実際にテロを行うものは、ごくごく一部であるため、その予測は困難を極めるだろう。