青年警察官のための失敗事例に学ぶ初動措置要領(第137回)

すぐそこですから!

青年警察官のための失敗事例に学ぶ初動措置要領(第137回)

すぐそこですから!

失敗事例
 眠気覚ましの方法は、人それぞれのようだ。
 日比は先日、大学時代の友人たちと久しぶりに会い、居酒屋で楽しい時間を過ごした。そのとき、友人の1人が「あの頃、徹夜で麻雀をしたこともあったよね。今じゃ考えられないよ。徹夜する体力なんてもうないから、今となっては絶対に無理!」と、話を切り出した。これをきっかけに、残っている仕事や家事を片付けるため、どうしても眠るわけにはいかないという時に、どうやって眠気を覚ましているのかという話題になった。友人たちから紹介された眠気覚ましの方法としては、◯コーヒーを飲む、◯ガムを噛む、◯ストレッチをする、◯ツボを押す、といった「定番」のほか、◯意地でも座らずに立ち続ける、◯氷水で顔を洗う、◯お腹の脂肪をつねり続ける、といった「苦行」的なものもあった。いずれにしろ、大学時代と比べて眠気に抗えなくなってきているのは明らかであり、悲しいかな、時の流れを感じずにはいられなかった。
 さて、時刻は間もなく、午前0時半を迎えようとしている。日比は、地域課執務室で熱いブラックコーヒーをすすっていた。コーヒー党を自認しているが、実はブラックはやや苦手で、いつもミルクと砂糖を入れるようにしている。それこそ、大学時代に徹夜で麻雀をしていた時も、「あり・あり」(ミルクあり・砂糖あり)ばかり注文していた。ただ、やはり眠気覚ましにはブラックを飲むべきではないかと思うに至り、今宵はちびちびと飲むことにした。ちなみに、適量のカフェインの摂取は身体に良い影響を与えるらしい。
 そうこうしていると、PSWの増幅器から「至急、至急。被疑者を確保。応援願いたい。」との通話が飛び込んできた。大町交番のA巡査による応援要請だ。幸いにもPCが付近にいたため急行し、事なきを得たようだ。A巡査も、特に怪我はしていないとのこと。
日比は、PCとA巡査を迎え入れて、被疑者である中年の男を刑事課の取調室へ連行した後、A巡査から詳しい経緯を聴取することとした。

 

日 比:
A君、お疲れ様。特に怪我はしていないみたいだけど、大丈夫かな?
A巡査:
日比係長、お疲れ様です。心配をお掛けしてしまい、すみませんでした。私は大丈夫です。
日 比:
良かった、安心したよ……。
A巡査:
日比係長が、そこまで私のことを心配してくださるなんて……。
日 比:
そりゃあ心配するよ。大切な後輩なんだから。
A巡査:
ありがとうございます!
日 比:
ところで、一体何があったんだい?
A巡査:
はい、状況をお伝えします。午前0時を少し回った頃でした。「お巡りさん、大変です。この先で、高齢の男性が酔っ払っているせいか、倒れて込んでいて……。一緒に来てもらえませんか?」と言いながら、突然、中年の男が大町交番に駆け込んできたんです。

02.jpg

日 比:
なるほど……。その時、相勤者はどうしていたの?
A巡査:
相勤者のB主任とC先輩は、ちょうど休憩中だったんです。奥で仮眠をとっていました。
日 比:
ふむ……。そうなると、2人を起こさずに、そのまま1人で対応したってことかな?
A巡査:
いえいえ。インターホンを使ってX主任とY先輩を起こし、酩酊者の対応をするため現場に向かう旨を告げました。
日 比:
なるほど……。ただ、一緒に臨場することまでは促さなかったわけだね?
A巡査:
はい……。
日 比:
了解。その上で、指令室には110番を入れたのかな?
A巡査:
あっ、いや……。それが……。
日 比:
うん?
A巡査:
実は、110番を入れられなくて……。
日 比:
そう……。何か理由でもあったのかな?
A巡査:
えーっと……。110番を入れようとはしたんです……。ただ、受話器を上げようとしたら、その中年の男が「お巡りさん、電話をしている時間なんてないですよ!一刻を争う事態かもしれません!早く来てください!すぐそこですから!」と言うので……。

03.jpg

日 比:
なるほど……。急かされてしまったわけね……。
A巡査:
はい……。
日 比:
それで、署の無線室も知らなかったというわけなんだね?
A巡査:
はい……。もちろん、事案の申告を受けて臨場する際は、110番やPSW等を使って報告すべきことは知っていたんですが……。
日 比:
うん、気持ちは分かるよ。頭では分かっていても、実際の場面では、思うように身体が動かないこともあるからね。
A巡査:
はい……。でも、全て言い訳になってしまうので……。一報を入れるべきなのは、初任科でも習っていたことですし、係長や主任からも教わっていたことなので……。

「警察公論」の他の記事を読む

「2026年01月号」の他の記事を読む