山岳遭難救助活動の実際 ~登山者と隊員の命を守り抜くために~(第5回)

再度の機動隊勤務

山岳遭難救助活動の実際 ~登山者と隊員の命を守り抜くために~(第5回)

第5回 再度の機動隊勤務

 1   再び機動隊へ

    松本警察署で2年勤務した後、私は再び機動隊へと異動しました。長野県警の山岳遭難救助隊では、機動隊の小隊長以下7人が、救助隊員としての指名も受け、長期の常駐活動や現場出動に従事しており、機動隊は、救助隊員の養成機関としての役割も担っていました。
 見込みのある若手隊員を機動隊に異動させて、訓練と現場出動を通じてスキルをアップさせ、昇任してまた警察署の救助隊員として活躍させるという伝統的な人事上の流れがあり、そのため、警察署配置の若手隊員は、以前の私もそうだったように、機動隊への異動を希望するのが自然な流れでした。
 そのような言わば救助隊の将来を担う隊員を預かる小隊長の役割とは、訓練と現場出動を通じて若手隊員を鍛え、現場の中核を担う人材へと育成することとも言えます。松本警察署での勤務1年目と2年目のそれぞれの期間で共に勤務した隊員も機動隊に異動しており、私は
  「彼らを鍛えて、また警察署に送り返すぞ」
と意気込みながら、再び機動隊に戻ったのです。
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 2   バランス感覚

    長野県のような中規模県警察の機動隊は、隊長以下40名程度の所帯のため、私が在籍した当時にいた3名の小隊長は、各機能別部隊の訓練企画や装備品・車両の管理、隊員の身上把握などの業務を担う、まさに隊運営の要とも言える存在でした。
 しかしながら、当時の私はと言えば、小隊長になったことで訓練計画の裁量をある程度与えられたため、これ幸いと山岳遭難救助隊員の訓練に重きを置いた訓練計画を押し通していました。当時在籍していた救助隊員は、隊員歴2年から3年の若手ばかりで、早く彼らを鍛え、厳しい現場に耐えられる人材に育てなければならないという焦りにも似た思いがあったとはいえ、ある日のこと、そんな独断的な私を見かねた当時の隊長から
  「小隊長は、あくまで機動隊の小隊長であって、山岳だけの小隊長ではない!」
と苦言を呈されてしまいました。
 警部補という階級は、しばしば「プレイングマネージャー」という言葉で表現されます。当然のことですが、部下を育成しながら組織を束ねて業務を推進するためには、強い情熱と高い専門性が求められます。しかし、時としてそれが行き過ぎると、当時の私のように、組織の中でバランスを欠いた存在と捉えられてしまうだけでなく、さらにエスカレートすれば周囲との軋轢を生んだり、ハラスメントという形で悪影響を及ぼしたりしてしまうのではないでしょうか。
 当時の隊長の言葉は、言い換えれば
  「幹部たる者、バランス感覚を持つべし」
であったように思えます。読者の皆さんには、私の体験を反面教師として、バランス感覚に優れた幹部を目指していただきたいと思います。
 なお、当時の隊長からは、部下に対して「言うべきことは言う」という姿勢も大いに学ばせていただきました。まだまだ私は遠く及びませんが、「ここぞ」というタイミングで部下に気づきを与えるような「刺さる言葉」を掛けてあげるのも、幹部の大切な役目ではないかと思います。

幹部に求められるバランス感覚
幹部に求められるバランス感覚
 3   特殊詐欺アジトの突入作戦

    機動隊には山岳遭難救助の出動要請もありますが、山岳遭難救助の技能が発揮されることを期待した、機動隊ならではのそれとは別の出動要請もあります。ここでは、今でも印象に残っている事例を二つ紹介したいと思います。
 一つ目の事例は、特殊詐欺アジトの急襲です。今でこそ、特殊詐欺の拠点は東南アジア圏を中心とした海外に移り、現地の警察機関が日本警察と連携し、詐欺集団の拠点を摘発していますが、私が小隊長を務めていた当時は、都内のマンションを拠点とする手法が主流でした。したがって、警察では、警視庁のSITチームと連携してそれらの拠点を急襲し、詐欺集団の摘発を行っていくことに力を入れていました。
 そんな中、長野県警と他県警の合同捜査の結果、都内のマンションを転々としながら、いわゆる「オレオレ詐欺」を繰り返す詐欺集団の実態が判明し、両県警の合同チームが拠点に突入して、架け子の一斉摘発を行うことになったのです。
 摘発に当たり、一つ問題となったのは、対象の拠点が10階建て以上の中高層マンションに拠点を構える傾向にあったことでした。内偵捜査の最中も被疑者らは捜査の手が及ばないよう拠点を変えて犯行を継続していましたが、いよいよ急襲を行うことになった現場も、14階建てマンションの13階にある一室でした。
 対象のマンションは、11階までは1フロアに複数の部屋があり、12階以上はやや広めの間取りとなっていて、1フロアに一部屋だけの造りになっていたことから、突入プランは3つの班に分かれて、1班は玄関ドアから強行突破、2班は11階屋上からハシゴを使用してベランダ部分から突入、そして3班は14階ベランダから懸垂下降(ロープを用いた下降)によって突入というものでした。私は、3班の責任者として、この作戦に加わることになりました。

懸垂下降(イメージ)
懸垂下降(イメージ)

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