職務質問のすゝめ Unlimited ~心を燃やせ! 自分ではない誰かのために~(第1回)

職務質問のすゝめ Unlimited ~心を燃やせ! 自分ではない誰かのために~(第1回)
神奈川県警察地域部地域総務課
警察庁指定広域技能指導官(職務質問)
德永とくなが 裕之ひろゆき
はじめに

    この度、警察公論に私見を掲載させていただくことになりました、広域技能指導官の德永です。よろしくお願いします。

    冒頭から恐縮ですが、読者の皆さんに、お知らせしなければならないことがあります。

 私は、令和8年3月末をもって警察庁指定広域技能指導官の身分を取り消されることになります。
 余命数か月といったところです。

    そんな、レームダック(Lame Duck)な人間が、これからの日本警察を担う皆さんに、何を言わんやと思われるでしょう。
 しかし、広域技能指導官の身分を失うことが分かっていても、有終の美として(自画自賛で恐縮ですが……)どうしても伝えたいことがあるのです。
 かつて連合軍最高司令官であったダグラス・マッカーサーの「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」の言葉を胸に、警察官にとって最大の武器である「職務質問」について、44年間の警察人生を振り返りながら、皆さんに少しでもプラスになるお話ができればと思います。

    と言ったところで、読者の皆さんの中には、「何で、急にやめるんだ?」「何か、やらかしたか?」といぶかる方に説明をします。
 実は令和7年4月に、警察庁指定広域技能指導官の指定及び広域活用に関する実施要領が改正され、新たに年齢制限の項目が付加されました。
 これにより、私の広域技能指導官としての指定が、今年度末に取り消されることになったのです。
 断じて、個人的な「やらかし」ではありませんので、誤解なきように!

    実は、こう見えても(と言っても、皆さんからは見えませんよね……)、日頃から自分の健康と体力の維持に努めていて、愛用の体組成計で測定すれば、体内年齢51歳・体脂肪率13%の値を示すヘルシー・ボディの持ち主です。このことからすれば、「まだまだ元気! まだまだ現役でいける!」との未練があるのも事実です。
 しかし、広域技能指導官の座に居座り続けることは許されません。ここは気持ちを切り替えて、67歳となった自分は、「2年間も長く好きな仕事を続けられた!」という感謝の念を抱きながら、後進に道を譲る決意をした(させられた?)のです。
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   前置きが長くなりましたが、そうした中、本書への執筆依頼を受けましたので、どうか広い心を持って、消え行く 武士もののふ慟哭どうこくをお聞きください。題して、「職務質問のすゝめ Unlimited」です。
 従来、「職務質問のすゝめ」と題して、講演などの機会に、その基本的な考え方を話していましたが、今回これに「Unlimited」を付加しました。
 今年度でリミットとなる私ですが、その熱い思いは、アンリミテッド(無制限)というわけです。
 本連載は、「心を燃やす職務質問の基本」と「The Glory Days」の2部構成とし、今回から数回にわたってお話ししていきたいと思います。

 

心を燃やす職務質問の基本
できるときにやって!

    職務質問の分野において「広域」を名乗る私の本心を言えば、多くの地域警察官に、職務質問を積極的にバンバンしてほしいと願っています。しかし、私が交番勤務をしていた時代に比べると、昨今では、地域警察官が扱う業務量が増え、また丁寧さ・慎重さも今まで以上に求められています。その結果、一つひとつの業務に相当な時間を要していると思います。

    「人身安全」という言葉すらなかった昭和の頃、夫婦喧嘩の通報があれば、現場に到着してまずやることは、当事者双方を落ち着かせ、喧嘩に至った事情を辛抱強く聞くことであり、暴行や傷害の事実がなく被害届を出す意思もないのであれば、最後に「夫婦円満が大切ですよ」と諭して解決するのが良いとされていました。
 それが今では、生活安全課員等とともに対応する場面も多く、DV事案や児童虐待事案のおそれはないか、危険性や切迫性の有無はどうかなど、多角的な観点から判断する必要があり、やるべきことが多岐にわたっています。

    「職質している暇なんかないでしょ!」と言いたくなるのも、無理はありません。

    この心の叫びに答えるとしたら、「できるときにやってみたら!」です。
 健康ブームの今、皆さんの中には、ちょっとの隙間時間を利用して、健康管理と体力維持ができるコンビニジム(コンビニ感覚で気軽に通える24時間営業のトレーニング・ジム)で鍛えている方はいませんか。
 職務質問も同じ感覚で、要件さえ充足していれば、事件事故の取扱いの隙間時間を利用して、ついでにやってみるというのもありだと思います。

    「110番通報、乗用車同士の物件交通事故、現場へ向かえ……」との指令を受けて現場に到着した場合、運転者双方から状況を聴取し、車両の損壊状況を確認して事故メモを作成すれば、「後は、お互いに連絡先を交換して、保険会社にも連絡してください」と助言して終了するのが通常ですが……。
 そのとき、一方の運転者が、自分の車の中を「ちらちら」と気にする不審な挙動をとっていたとしたら、それを見過ごしてはいけません。間髪入れず、「最後に、車の中を確認させてください」と職務質問に移行すればよいのです。

    様々な事件事故の取扱いの中で、関係者の不審な挙動を感じたら、そのときこそ職務質問を行うタイミングです。ついでにやってみるといった感覚で十分です。「職質するぞ!」「職質検挙しなきゃ!」と、大上段に振りかぶる必要はないのです

 

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