法務省刑事局付 宮本 征
[case 364] 東京地判令3.9.2
AIを悪用して作成したディープフェイク動画をインターネットサイトに掲載した行為について名誉毀損罪及び著作権法違反の罪の成立を認めた事例(確定) >>D1-Law(判例ID)28293253
1 はじめに
本件は、被告人が、AIを悪用し、アダルトビデオの出演女優の顔部分を著名な女性芸能人の顔に変えたディープフェイク動画を作成し、インターネットサイトに掲載するなどした行為について、名誉毀損罪及び著作権法違反の罪で起訴され、有罪となった事案である。
公判において、弁護人は、著作権法違反の罪の成立は争わない一方で、名誉毀損罪の成立を争ったが、裁判所は、弁護人の主張を排斥し、公訴事実どおり、名誉毀損罪及び著作権法違反の罪の成立を認めた。
本判決は、あくまで地裁による事例判断ではあるが、今後の同種事案の捜査に当たって参考になると思われることから紹介する。また、近時、本件のようにAIを悪用したディープフェイク動画や画像がインターネット上で流通していることが社会問題化しており、捜査機関としては、現行法下で適用可能な様々な罰則を駆使して厳正に対処することが求められているので、併せて、この種の事案に適用し得る罰則について若干考察することとする。
なお、本稿中、意見にわたる部分は、筆者の私見である。
2 事実関係
本件の公訴事実の要旨は、次のとおりである*1。
(1)
令和元年12月21日頃、不特定多数の者が閲覧可能なインターネットサイトに、アダルトビデオの出演女優の顔部分に甲の顔を合成加工し、あたかも同人がアダルトビデオに出演したように見える動画を掲載して、不特定多数の者が同動画を閲覧することが可能な状態にし、もって公然と事実を摘示し、甲の名誉を毀損した。【名誉毀損】*2
(2)
法定の除外事由がなく、かつ、著作権者の許諾を受けないで、令和2年1月19日頃、前記被告人方において、乙社が著作権を有する映画の著作物を、パーソナルコンピュータを用いて男性と性交等している出演女優の顔に丙の顔を合成加工して翻案した動画を作成した上、乙社が著作権を有する前記翻案された動画の情報を、インターネットに接続された自動公衆送信装置であるサーバコンピュータの記憶装置に記録保存して、同サーバコンピュータに接続してきた不特定多数の者にあたかも丙がアダルトビデオに出演したように見える前記動画の情報を自動公衆送信し得る状態にし、もって乙社の著作権を侵害するとともに、公然と事実を摘示し、丙の名誉を毀損した。【名誉毀損・著作権法違反(翻案権侵害及び公衆送信権侵害)】
*1
被告人は、別の動画の作成・掲載行為に係る著作権法違反の事実(翻案権侵害及び公衆送信権侵害)についても起訴されているが、当該事実については、名誉毀損罪では起訴されておらず、公判でも争点になっていないので、以下では割愛する。
*2
公訴事実(2)と異なり、公訴事実(1)については、名誉毀損罪のみで起訴され、著作権法違反の罪で起訴されていない。その理由は、本判決からは判然としないが、著作権法違反の罪が基本的に親告罪とされていること(著作権法123条1項)などが関係している可能性があると思われる。