法務省刑事局付
伯耆 香奈子
[case 367] 最決令7.10.21
「コンテナ倉庫」について、一定の事実関係の下、刑法130条の「建造物」に該当すると認定された事例
>>裁判所ウェブサイト*1
1 はじめに
2 下級審判決
(1) 第一審判決(旭川地判令5.12.21公刊物未登載)
(2) 原判決(控訴審・札幌高判令6.4.18公刊物未登載)
3 本決定の内容等
(1) 弁護人の主張
(2) 本決定の内容
4 検 討
(1) 建造物侵入罪(刑法130条前段)における「建造物」
(2) 刑法130条の「建造物」に関する裁判例
(3) 非現住建造物等放火罪における「建造物」に関する裁判例
(4) 本決定について
5 終わりに
1 はじめに
本件は、被告人が、令和5年4月20日頃から同年6月4日頃までの間に、工場や事務所の倉庫に侵入して工具やタイヤ等(時価合計約35万3168円相当)を盗んだという建造物侵入、窃盗4件と、同年4月23日頃及び同月24日頃に中古車販売業者のコンテナ内からタイヤ(時価合計約40万円相当)を盗んだという窃盗2件の事件であり、具体的には
➀ 令和5年4月20日頃、工場内に無施錠のシャッター扉から侵入してソケットセット等を窃取した建造物侵入・窃盗事件(➀事件)
➁ 同月23日頃、会社敷地内に設置されたコンテナ内において、スタッドレスタイヤ等を窃取した窃盗事件(➁事件)
➂ 同月24日頃、前記➁のコンテナ内において、スタッドレスタイヤ等を窃取した窃盗事件(➂事件)
➃ 同年5月3日頃、窃盗の目的で倉庫内に無施錠の出入口ドアから侵入し、ハンマードリル等を窃取した建造物侵入・窃盗事件(➃事件)
➄ 同月6日頃、窃盗の目的で会社敷地内に設置されたタイヤ倉庫にシャッター扉から侵入し、スタッドレスタイヤ4本を窃取した建造物侵入・窃盗事件(➄事件)
➅ 同年6月4日頃、窃盗の目的で給油所東側に設置されたコンテナ倉庫(以下、「本件コンテナ倉庫」という。)に、出入口扉の施錠を解いて侵入し、タイヤ8本を窃取した建造物侵入・窃盗事件(➅事件)
という一連の事件である。
本件では、主に、これらのうち、➅事件の本件コンテナ倉庫が建造物侵入罪(刑法130条前段*2)の「建造物」に該当するかが争われた。そして、本決定は、一定の事実関係の下、本件コンテナ倉庫の形態及び使用の実態に照らし、それが社会通念上土地に定着していると認定した上で、刑法130条にいう「建造物」に当たると判示したものである。
本決定は、飽くまで事例判断ではあるが、同種事案における建造物侵入罪の成否の検討・判断において参考になると思われることから、考察を加えつつ紹介することとした。
本稿中、意見にわたる部分は、筆者の意見である。
*2
刑法(明治40年法律第45号)第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する。
2 下級審判決
(1) 第一審判決(旭川地判令5.12.21公刊物未登載)
第一審においては、本件コンテナ倉庫が「建造物」に該当するかにつき、争われることはなく、➅事件については、被告人が、窃盗の目的で、本件コンテナ倉庫に出入口扉の施錠を解いて侵入し、ホイール付きタイヤ8本(時価合計約13万2768円相当)を窃取した事実が認定され、建造物侵入罪及び窃盗罪の成立が認められた上で、➀~➄事件と併せて、被告人を懲役2年6月に処する旨判示された。
(2) 原判決(控訴審・札幌高判令6.4.18公刊物未登載)
ア 争点
第一審判決に対し、弁護人は、量刑不当のほか、➅事件において、被告人が侵入した本件コンテナ倉庫は建造物ではないにもかかわらず、刑法130条前段を適用することは、法令適用を誤ったものであるなどと主張して控訴した。そのため、控訴審において、本件コンテナ倉庫が刑法130条の「建造物」と認められるか否かが争点となった。
イ 弁護人の主張
本件コンテナ倉庫の「建造物」性についての弁護人の主張の概要は以下のとおりである。
(ア) 一般に、刑法130条前段にいう「建造物」とは、屋蓋があり壁や柱で支えられて土地に定着し、人の起居出入りに適した工作物のうち、住居・邸宅以外のものを指すところ、コンテナは土地に定着していない動産であるため、建造物ではない。
(イ) ➅事実について、第一審判決は、コンテナではなく、「コンテナ倉庫」と記載しているところ、これは、大型のコンテナを倉庫として利用する場合、随時かつ任意に移動できない状態で設置されるものであり、建造物である倉庫と同様に扱う趣旨と思われるが、いかに大型であろうと、コンテナは土地に定着していない動産であるから、建造物には該当しない。
この点について、国土交通省はコンテナを倉庫として設置し、継続的に使用する物件等は、その形態及び使用の実態から建築基準法2条1項に規定する「建築物」に該当するとしており、第一審判決もこれと同旨のものと思われるが、建築基準法と刑法とでは、その目的が全く異なるため、建築基準法上、コンテナが建築物に該当するとしても、そのことから刑法上もコンテナを建造物として取り扱うべきとはいえない。
また、国土交通省の解釈は曖昧不明確であって、刑罰法令の解釈としては適当とはいえない。すなわち、国土交通省は、形態及び使用の実態に応じて、コンテナについて建築物に該当するかを判断するとしているが、コンテナの内部に動産を収納して保管するというのはコンテナの本来の用法であって、倉庫として用いているか、コンテナとして用いているかを区別する基準としては不明確である。また、形態についても、大型で容易に動かせないものについては建築物と認められやすいと思われるが、どの程度の大きさなら建築物たるコンテナ倉庫となり、どこからが動産であるコンテナであるか明確な基準はなく、社会通念上もその区別は明確とはいい難い。
(ウ) 刑法上の「建造物」に該当するか否かは、建造物侵入罪という犯罪の成否に関わる問題であり、罪刑法定主義に照らして明確でなければならないが、「コンテナ倉庫」と「コンテナ」を明確に区別する基準はない。本件でも、コンテナ内に保管されていたタイヤを窃取した点では➁事件、➂事件と同様であるのに、これらの事件においては刑法130条前段が適用されていないのであるから、➅事件でも刑法130条前段を適用することはできない。
ウ 原判決の判断
原判決は、弁護人の主張を排斥し、控訴を棄却した。
すなわち、札幌高裁は、控訴審において実施した事実取調べの結果も踏まえ、本件コンテナ倉庫につき、
◯ 奥行き約1240センチメートル、幅約240センチメートル、高さ約288センチメートルと大型のものであること
◯ 本件コンテナ倉庫の看守者によれば、顧客からタイヤを預かり保管するサービスを始めたことをきっかけに、令和元年7月に設置され、それ以降場所を移動させたことはないし、隣接する給油所が存続する限り移動させる予定はなく、仮に移動させようとする場合には、専門業者に依頼する必要があること、現に多数のタイヤ等が保管されていたのであるから、倉庫として継続的に使用され、随時かつ任意に移動できないもので、今後も移動の予定はないものと解されること
◯ 本件コンテナ倉庫内には電気業者に依頼して設置した電灯設備があり、電気は電柱から電線で引いていること
を認めた上で、その形態及び使用の実態に照らすと、社会通念上、本件コンテナ倉庫は土地に定着しているというべきであって、刑法130条前段の「建造物」に当たると認められ、原判決の法令の適用に誤りはない旨判示した。