テロと心理学(14)

自爆テロリストのパーソナリティ

テロと心理学(14)

自爆テロリストのパーソナリティ

法政大学教授  越智 啓太

自爆テロリズムとは何か
 自爆テロとは、テロ実行者が爆発物を身につけ、ターゲットの周辺で自爆することによって多くの人々を殺害するテロ攻撃のことである。爆弾はベルトでからだにつけられるベルト爆弾か、自動車(バイクやトラックも含む)に仕掛けられる自動車爆弾が多い。
 自爆テロに類似した自分の命を犠牲にする攻撃形態は、日本軍によるカミカゼ攻撃以前から存在したが、現在のような形態になったのは、1981年頃にレバノンで発生した爆弾テロからだと考えられている。その後、1982年にはシーア派兵士のシェイク・アハメド・カシールがイスラエル司令部を自爆式自動車爆弾で攻撃し、141名のイスラエル人を殺害している。この攻撃過程は、シーア派過激派のヒズボラによって録画され、カシールは殉教者として祭り上げられ、いまやヒズボラの祝日の一つとなっている。さらに、1983年にベイルートのアメリカ大使館で63人が死亡する自爆テロが発生している。このテロもヒズボラによって引き起こされたもので、西側諸国のレバノンからの撤退のきっかけになったといわれている。
 それ以来、自爆テロはテロ攻撃手段の主流に躍り出た。スリランカからチェチェン、アフガニスタンなど多くの国で現在も自爆テロが引き続き行われている。初期の自爆テロには、スリランカにおけるタミール・イーラム解放の虎の自爆テロのように民族運動をその理由とするものがあったが、現在のほとんどの自爆テロはその背景に宗教的なものを持ち、その多くがイスラム過激派によるものである。
 イスラエルのシンクタンク国家安全保障研究所(INSS)によれば、2019年には149件の自爆テロが行われ1855人が殺害され、2020年には127件の自爆テロが発生し、765人が死亡している。2020年の自爆テロ1件あたりの平均死者数は6人、負傷者数は15人である。もっとも多くの自爆テロが発生したのは、アフガニスタンで52件、このほとんどはタリバンによるものである。次いで、ソマリア24件、シリア19件であった。他には、イラク、カメルーン、ナイジェリア、パキスタンなどで自爆テロが発生している。
 自爆テロは、ハイジャックや他のタイプのテロに比べ、志願者さえ確保できれば、極めて効果的な方法である。例えば、第二次インティファーダ(イスラエルによるパレスチナの軍事占領に対する民衆の実力行使をともなう抵抗活動。第二次インティファーダは2000年~2004年に活発化した)の期間における自爆攻撃の割合は1%以下であったが、死者数の50%は自爆攻撃によるものであった。また、自爆者自体に死ぬ覚悟があれば、治安機関は防ぐことは困難で、成功率は非常に高い。また、そのマスメディアなどへの影響力はほかのどのテロ手法よりも大きい。

誰が自爆テロリストになるのか
(メラリらのグループの研究)

 日本国内における要人テロでも、左翼テロリストはほとんど自殺することはないのに、右翼テロリストは自殺傾向が高いことが知られている。ただし、これは右翼思想や彼らの多くがモデルとする三島由紀夫の行動などを考えると理解することは可能である。
 では、近年のイスラム過激派における自爆テロにおいて、なぜ、志願者は自分が確実に死ぬとわかっている自爆行動に志願するのであろうか。
 この問題を実証的に研究したのが、テルアビブ大学のアリエル・メラリ(Ariel Merari)らのグループである。メラリは、自爆テロの専門家でオックスフォード大学出版から『自殺テロの心理学的社会学的要因:死への動機づけ(Driven to Death)』を出版している。また、テロリズムについての著名な学術誌である『テロリズムと政治暴力』誌に「殉教者と自爆攻撃のオーガナイザーのパーソナリティ特性(Personality characteristics of “self martyrs”/“suicide bombers” and organizers of suicide attacks.)」という論文を発表している。
 彼は従来の自爆テロに関する研究がテロリストについての二次資料の分析などによっていることを批判し、実際にテロリストと面接し、彼らに心理学的なアセスメント(評価)を行うことによって、自爆テロリストのパーソナリティや思想を理解しようと試みたのである。この種の研究をしっかりとした方法論で行ったのは、もちろん、メラリらのグループの研究が最初のものであり、非常に貴重な研究であるといえる。
 ただし、もちろん、自爆攻撃を成功させてしまったテロリストは死亡しているので、調査対象とされた自爆テロリストは、自爆テロを決行しようと試みたが失敗して拘束されたものたち15人である。全員がパレスチナ人テロリストである。このうち、4人は自爆を試みたものの爆弾が技術的な問題により爆発せず、現場で検挙されたもので、10人が自爆攻撃に向かう途中で発見され検挙されたもの、残り1人は自爆テロの前日に警察によって検挙されたものであった。彼らの所属組織は、ハマスが5人、パレスチナイスラム聖戦(PIJ)が5人、ファタハのアルアクサ殉教者集団が5人であった。彼らの年齢は16歳~23歳で、平均年齢は19・8歳であった。彼らのうち、1人は大学教育を受け、12人は高校教育を受けている、残り2人は小学校教育のみを受けている。彼らの全員が未婚であった。
 彼の研究の興味深い点、そして学術的にもっとも意義のある点は、このグループを他の2つの統制群(コントロールグループ)と比較している点である。最初の統制群は、非自爆テロリストで、自爆以外の方法でテロを行い検挙された12人であり、彼らは、学歴や年齢、婚姻状況などにおいて自爆テログループと同等になるように選択された。この群の平均年齢は19・6歳であった。
 第2の統制群は、このような自爆攻撃を指示する立場にあったオーガナイザーたちである。パレスチナ人の自爆攻撃のほとんどはローンアクター型のものではなく、特定のグループの指揮命令系統の中で行われる。オーガナイザーたちは、各組織の軍事部門の第一線の責任者で、自爆装置の準備と作成、候補者の採用と訓練、候補者のビデオ撮影の立ち会い(自爆に先立って実行犯はビデオ撮影される場合が多い)、目標の設定などを行う。検挙され収監中のオーガナイザー14人が調査対象となった。彼らは、調査の時点で平均35・6か月収監されており、年齢は21~36歳、平均年齢は27・6歳であった。彼らの所属組織は、ハマスが5人、パレスチナイスラム聖戦(PIJ)が5人、ファタハのアルアクサ殉教者集団が4人であった。彼らの学歴はテロ実行犯に比べて高く、6人が大学教育を受け、そのうち3人は卒業し学士号(工学ないし宗教学)を取得していた。残りのメンバーも全員が高校教育を受けていた。また、彼らの半数は既婚者で1人を除いて子どもがいた。

自爆テロリストの心理アセスメント
 メラリは、これらのグループに対して、刑務所内の面接室で面接調査と心理アセスメントを行った。検査は、アラビア語に堪能なプロの臨床心理士によって行われた。テロリストたちのほとんどは、調査に協力的であった。
 心理アセスメントにはロールシャッハテスト(左右対称なインクのパターンを見て解釈させる著名な心理テスト、深層心理的な側面のアセスメントに使用される。採点はもっとも科学的な基準だと考えられているエクスナー法を用いて行われた)、TAT(絵を見せて物語を作らせるテスト、やはり深層心理学的な動機構造を明らかにするために使用される)、HTPテスト(白紙に家と木、それに人物を描かせる描画テスト、深層心理、知的水準、家族関係などをアセスメントすることができる)、カリフォルニア性格目録(さまざまな性格に関する質問に回答する質問紙方式の検査、自分で意識している性格特徴をアセスメントすることができる)が用いられた。所要時間は面接検査に平均2時間、心理アセスメントに平均4時間で、1人あたり6時間に及ぶ検査が行われた。
 これらのテスト結果は、アセスメントを実施した臨床心理士によって分析されただけでなく、アセスメントを実施していない臨床心理士によってもブラインド(二重盲検法)で分析された。この追加の臨床心理士たちは、それぞれのデータがどのグループであるかを知らされていなかった。臨床心理士たちの分析はおもに3つの観点から行われた。一つめは彼らの自我の強さであり、次に彼らのパーソナリティ特性、そして彼らの自殺志向性・うつ傾向・サイコパス傾向である。複数の診断の一致率はおおむね80%以上であり、分析の信頼性は高かった。

自爆テロリストの自我強度
 自我とは、自分と他者を明確に分ける心理的な認識のことで、自我強度とはその程度のことを意味する。自我強度が強い状態とは、自己主張の強さや自己の決めたことを貫き通す信念や決断力の強さ、ストレス耐性、自制心や高い集中力などを意味する。ただし、これが強すぎると協調性がなかったり、わがままであると捉えられてしまう危険性もある。臨床心理士たちは、それぞれのグループのテロリストの自我強度を強、中、低に分類した。このうち、「低」は精神疾患レベルであるがこの分類に当てはまるテロリストはいなかった。分類の結果をまとめると表1のようになった。
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 この結果は、自爆テロの実行犯が、オーガナイザーに比べて信念や決断力、ストレス耐性が弱いこと、つまり自律した行動をとるのが得意ではないことを意味している。9・11テロの自爆犯がいずれも高学歴であったことなどから、テロに関する文献の多くは、テロリストを抑圧された低学歴のものたちでなく、思慮があり、自律的な判断のできる高学歴のものであるとしているが、この研究では、これはオーガナイザーについては確かにその傾向があるかもしれないが、自爆テロ実行犯については必ずしも当てはまらないということを示している。
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自爆テロリストのパーソナリティ特性
 次に彼らは、自爆テロリストのパーソナリティの特徴について明らかにしようとした。基準としたのは、アメリカ精神医学会が作成している診断基準のDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)である。DSMでは、パーソナリティ(障害)は、表2の3つのクラスター(カテゴリー)に分類されている。そこで、臨床心理士たちはテロリストたちが、これらの3つのどのカテゴリーにあたるかを分類した。
 分析の結果、自爆テロリストにはクラスターCのものが多く、非自爆テロリストやオーガナイザーにはクラスターBのものが多かった。クラスターAに該当するものはいなかった。また、いずれのテロリストも精神疾患のレベルには達していなかった。
 この結果は、いくつかの点で興味深い。一つは自爆テロリストは自尊心が低く他人に依存する性格だということがわかったという点である。これは自爆テロリストが自発的にその役割に志願しているというよりも集団の圧力やオーガナイザーへの依存によってその役割に志願している可能性があるということである。これも従来のテロに関する文献が描いている自発的自律的な殉教者というイメージとは異なっている。
 また、クラスターAのものや精神疾患レベルのテロリストが発見されなかったということは、精神疾患による異常性や妄想がテロを引き起こすというよくある見解が支持できないということを示している。
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自爆テロリストの自殺志向性、 うつ傾向、サイコパス傾向
 最後に各グループの自殺志向性とうつ傾向、そしてサイコパス傾向が調べられた。
 自殺志向性とは、自殺を試みようと考えていたり、自殺を試みたことがあるという傾向である。その結果、自爆テロリストにのみ自殺志向性のあるものが存在し、その割合も低くなかった。うつ傾向とはうつ気分に支配され、ネガティブな思考パターンをもち、それにともない活動性の低下や不眠、倦怠感などが見られることである。自爆テロリストにはうつ傾向のものも多く、そのうち3人は心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を示していた。例えば、彼らはTATにおいて、より主人公が苦悩し、無力さや孤独や悲しみを感じ、悲観的なストーリーを作り出した。つまり、自爆テロリストはもともとうつ症状があり、自殺志向があった。
 サイコパス傾向とは、良心の欠如、共感性の欠如、他人を操作する傾向、衝動性などをもつ性格特性で、常習的な犯罪者によく見られる傾向である。興味深いことに自爆テロリストにこのような傾向を持つものは存在せず、また、オーガナイザーでもこの傾向のものは余り見られなかった。これは、テロリストがいわゆる「犯罪者」とは異なる特徴を持つ可能性を示している。

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メラリらの研究に対する批判と問題点
 メラリらの研究は、自爆テロリストにはある種特徴的なパーソナリティ特性があり、それは、従来の自爆テロリストやテロリスト一般のイメージとは異なるということを実証的に示したという点でかなり重要なものである。彼らの研究に従うならば、自爆テロリストは妄想などの精神疾患はもっていないもののうつ傾向、自殺志向性があり、依存的で回避的なパーソナリティ故に自爆テロリストにされてしまっている可能性がある。
 しかし、もちろん、彼らの研究には多くの批判もある。まず、ここで対象となった「自爆」テロリストが実際には自爆失敗犯であるという問題である。彼らは殉教に失敗しているわけであり、その自責の念からそのような心理的な反応が生じたという可能性がある。事実、彼らはインタビューの時点ですでに逮捕から平均7・5か月経過しており、その長い収監期間が彼らの心理に少なくない影響を与えたことは容易に想像できる。
 さらに、研究に用いられたテロリストの数が少ないというのも大きな問題点になるだろう。実際、メラリ自身もこの点について言及している。しかし、この種の研究で、これだけの協力者を得ることは事実上困難であるため、研究自体の意義が損なわれるわけではないだろう。ただし、この研究の対象者がパレスチナの自爆テロリストのみであるということは、そのほかのテロリストへの理論の一般化を制限するものであることは確かだろう。