テロと心理学(15)

自爆テロリストのパーソナリティ(2)

テロと心理学(15)

自爆テロリストのパーソナリティ(2)

法政大学教授  越智 啓太

自爆テロリストはうつ病かうつ病でないか
 前回(2024年4月号)は、メラリの自爆テロリストのパーソナリティについての実証研究を紹介した。この研究によれば、自爆テロリストは、テロの指揮者(オーガナイザー)や非自爆テロリストに比べ、自我が弱く、依存性、強迫性が強く、もともとうつ傾向や自殺志向性を持っていたということが示された。
 このメラリの研究に対して、何人かの研究者が反論した。彼らは、自爆テロリストは決して、うつ病なのではなく、彼らは自発的な意思で、殉教したのだというものである。

タウンゼントの研究
 彼らが根拠にする研究の一つは、メラリの研究の前に発表された、タウンゼントの論文である。これは、専門誌『自殺と生命を脅かす行動』に、「自殺テロリスト:彼らは自殺志向があるのか(Suicide terrorists: Are they suicidal?)」という題で掲載されたものである。
 この論文で彼女は、まず、過去に発表された自殺テロリストの心理についての実証的な研究を幅広く探索している。まず、この種の論文は極めて数が少ないことがわかった(この点は、メラリも指摘している)。彼女がピックアップすることができたのは、わずか5つの研究であった。
 これらの研究では、自爆テロリストの家族や友人、自爆テロリスト志願者に対して、インタビューを行ったり、さまざまな資料を分析したりするなどの方法によってその心理が研究されている。その結果、彼らは自爆前にうつや自殺志向的な行動や言動は見いだされず、むしろ、活動的で前向きの人格であるものが多いことが明らかになった。


自殺テロリストがうつ病ではないことを示した諸研究

◯ メロイ(Meloy, J. R.)の研究(2004)
  アメリカ同時多発テロ事件の実行犯グループの中での主犯、アルカーイダのムハンマド・アター(Mohamed Atta)についての分析。
◯ シューブレイ(Schbley, A.)の研究(2003)
  15人の宗教テロリストへのインタビューテープと、341人のヒズボラのメンバー(自殺テロリスト予備軍)に対する質問紙調査の分析。
◯ ポスト(Post, J.M.)らの研究(2003)
  投獄されている中東テロリスト35人(イスラム聖戦とヒズボラの21人とファタハ、PFLP、DFLPのテロリスト14人)に対する半構造化インタビュー
◯ フィールズ(Fields,R.M.)らの研究(2002)
  1993年~1995年にかけて自爆攻撃をしたパレスチナ人テロリスト9人について、家族や友人にインタビューした。対照群として同様の背景と特徴を持つ非自爆テロリストを選択して、比較した。インタビュー以外に、自爆攻撃の前に実施されていた性格テストや心理状態に関する各種のテストデータが使用された。
◯ ハッサン(Hassan, N.)の研究(2001)
  ガザのパレスチナ過激派のキャンプにいる任務に失敗した自爆テロリスト、死亡した自爆テロリストの家族、テロリストを訓練したものなどへのインタビュー研究。対象者は18~38歳。

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    また、彼女は自爆テロと自殺は、さまざまな点で大きく違うとして、その違いについて、表1のようにまとめている。彼女の結論は、自殺テロリストは自殺者ではなく、殉教者であり、自爆テロリストと他の自殺者との心理的な共通点を見つけようとする試みは、余り有効でないというものだ。

ブリムとアラジの研究
 また、ブリムとアラジは、専門誌『紛争とテロリズム』誌にやはり、「自爆テロリストは自殺志向があるか(Are suicide bombers suicidal?)」という論文をのせ、メラリの見解に実証的に反論している。
 彼らは、パレスチナ人の自爆テロ犯42人を対象に、その近親者や親しい友人に対して個別インタビュー調査を実施した。そこには自爆犯の動機や性格、行動、また直近1年間に体験した個人的、社会的、経済的な苦痛に関連する一連の質問が含まれていた。各対象者、最低、2名の近親者が調査されその一致性が確認された。また、犯人についての公開資料や記録がある場合には適宜、参照した。
 調査の結果、自爆テロリスト32人(全体の76パーセント)には、明らかなうつ病やうつ病につながる可能性のある個人的な危機の兆候は見られなかった。近親者は彼らを、精力的、社交的、幸福、運動能力に優れたと評価した。多くの場合、自爆犯は自爆攻撃の数週間前に、より瞑想的で宗教的になる傾向は見られた。
 ただし、残りの10人の自爆テロリスト(全体の24パーセント)は、うつ病の兆候を示していたか、うつ病につながる可能性のある個人的な危機を経験していた。彼らのうつは、それが慢性的な精神医学的な症状というよりは、彼らの置かれた社会的、政治的な環境がもたらしたものであった。
 自爆テロリストのうち、9人(全体の21パーセント)は、すくなくとも実行の1年前には、殉教の願望を表明していたが、残りの80%のものは、肉親や親しい友人に、何らかの理由で命を絶ちたいとの意思表示をしたことはなかった。
 パレスチナ・イスラエル人の人口全体におけるうつ病有病率の推定値は24・9パーセントである(ただし、この数字はヨルダン川西岸とガザに居住するパレスチナ人ではなく、パレスチナ系イスラエル人のサンプルに基づいている。占領地での生活環境を考えると、そこではうつ病の有病率がより高いことが予想される)。したがって、サンプルに含まれる自爆テロ犯のうつ病有病率がわずか24%であったことは、自爆犯は普通の国民とうつについては同様の状態であったことを示している。

自爆テロリストはやはりうつ病である
 これらの研究に対して、ランクフォード(Lankford, A.)は専門誌『攻撃性と暴力行動』に「自爆テロリストは、臨床的な自殺リスクファクターを表出するか?(Do suicide terrorists exhibit clinically suicidal risk factors?)」という論文をのせ、説得力のある反論を展開した。彼の批判のポイントは次のようにまとめられる。

 自殺はコーランによって禁止されている。自殺によって死亡することは恥であり、辱めを受けることになる。一方で、殉教すれば、英雄として賞賛され、名誉を与えられる。そのため、生き残った自爆テロリストが、インタビューなどで自らの行為を自殺だと認めることは考えにくい。
 ほとんどの研究は、(死亡した)自爆テロリストは自殺的でないという実証的なデータを、自爆テロリストの家族に対するインタビューから導いているが、ここでも(1)と同様なことがいえる。家族が自殺するのは恥であるが、殉教するのは誇りである。このため、彼らは殉教者の精神状態について、真実を話していない可能性が大きい。
 遺族にとっても、精神的な苦痛や病気による自殺といわれると自分の責任を感じるかもしれないが、殉教といわれるとそのような苦悩から解放されるので、あえて、殉教という可能性が大きい。また、本人が地獄(自殺によってもたらされる)でなく楽園(殉教によってもたらされる)にいると考えるほうが、ずっと受け入れやすい。
 多くの家族は、彼らが死ぬ前にどれほど元気で幸せそうであったかを熱弁するが、自殺前にそのように見えることは、一般的な自殺ではよくあることである。また、家族は、このように主張することによって、自殺シグナルを見逃したという後悔を感じなくてすむ。
 また、いくつかの研究はテロリストの指導者などへのインタビューからその結論を導いているが、テロリスト集団にとっては、精神的に健全で高学歴で社会的地位の高い人物が殉教することがプロパガンダとしては最も効果的である。そのために彼らは、自爆テロリストの行動について偽りの情報を流す強い動機づけがある。
 実際に、アルカイダの自爆テロリストのメンバーの中には、殉教者として選び出される前に遺書を書いており、それを指導者に知らせた後に指名されているものが少なくない。
 タリバンは最も多くの自殺テロリストを輩出しているが、実際にその半分は自爆によって自分しか死亡していない。自爆テロは容易に他人を殺すことができるので、これは、彼らがよほど無能だということを意味しているか、あるいは、自分自身だけ死ぬことを考えていて、政治的な大義など関係ないと思っているからかもしれない。彼らは、爆弾を体に巻き付けた段階で、待ちきれずに自爆してしまったのである。
 自爆テロが、政治的に何らかの役割を果たすという可能性はほとんど存在しない。そして、テロリスト自身、それをよく知っている。
 つまり、メラリに対する反論は調査、研究方法自体に誤りがあり、やはり、自爆テロリスト自身はうつ的で自殺志向的な考えがあり、テロの実行者は、自殺をしたい人物を探し出してくるか、そのような人物が志願してきた時に自爆テロリストに仕立て上げているというのである。

自爆テロリストの自殺志向性
 事実、自爆テロリストたちの個々のケースを見てみると、彼らが自殺志向性を持っていたと思われるケースは数多く見つかる。例えば、以下のようなケースである。


自殺企図のあった自爆テロリスト、ワファ・アルビス(Wafa al-Biss
 パレスチナ人少女、ワファ・アルビスは、明確な政治的またはイデオロギー的根拠がないにもかかわらず、少女時代から自殺志向性があり、両親に「殉教者になりたい」と語っていた。両親は、彼女をテロ組織と接触させまいと努力し、時には彼女を家に閉じ込めた。しかし、彼女は、台所のコンロに火をつけて自殺を図った。
 彼女は大やけどを負ったが、イスラエルの救急病院に搬送され、命は救われた。しかし、退院後、彼女はアル・アクサ殉教者旅団に参加し、自ら自爆テロリストになることを志願した。その後、彼女は彼女の命を救ったイスラエルの救急病院へのテロを実行しようとしたが、体につけた22ポンドの爆発物が爆発しなかったため、発見され検挙された。


自爆テロリストのリクルート
 また、自爆テロリストをリクルートするために、わざとターゲット人物を自殺せざるを得ない状況に追い込み、自爆テロリストになることを強要するようなことまで、行われていたことがわかっている。具体的には、以下のようなケースである。


女性自爆テロリストリクルーター、サミラ・アハメド・ジャシム(Samira Ahmed Jassim)
 1958年生まれのサミラ・アハメド・ジャシム・は、「信者の母」ウム・アル・ムメニンとしても知られスンニ派過激派の自爆テロリストのリクルーターとして活動した。彼女は、自爆テロリスト志願者の女性80人以上をリクルートし、最低でも26件の自爆テロを引き起こした。
 彼女は、刑務所の中で自らのリクルート方法について話しているが、それは驚くべきものだった。彼女はまず、男性テロリストを使って、女性をレイプさせる。イスラム社会においては、レイプ被害者になることは一種の恥であり、社会的に辱めを受けることになる。これ自体がしばしば女性の自殺の原因となる。
 彼女は、被害を受けショックを受けているターゲットに近づき、「信者の母」として親身になって相談するように見せかけ、ターゲット女性に自爆テロリストになって、被害を受けた罪を償う必要があると説得したのである。
 武装勢力はしばしば、女性自爆テロリストを使用するが、これは爆発物をローブの下に隠すことができ、男性警察官や男性警備員に捜索されて発見される危険性が低いためである。


自爆テロの研究者たちは、このような非道な手段が使われること自体、テロ組織が、真の殉教者だけでは自爆テロリストを充足出来ず、自殺志願者を作り出したり、集めたりする必要があることを認識している証拠だと考えている。

なぜ、うつ病になるのか
 では、そもそも、自爆テロリストがうつ病になってしまう原因とは何であろうか。うつ病は世界的にもっとも患者数が多い精神疾患の一つである。その原因は、脳や神経伝達物質の異常に起因するものも多いが、最も多いのは、環境的なストレスである。実際、自爆テロリストが育ってきた環境、置かれている環境は非常にストレスフルな状況であるのは確かである。
 例えば、うつ病の原因となるストレス源としては、愛する人との死別や別れがあるが、戦場や紛争地域においてはこのような別れは日常的である。例えば、スペックハードとアクメドマ(Speckhard, A. & Akhmedova, K.)は、34人のチェチェンの自爆テロリストについて分析しているが、その結果、テロに参加したすべてのテロリストが人生において、死別や深刻なPTSDを体験していることを明らかにした。
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道徳的葛藤の問題
 また、道徳的罪悪感と恥辱に圧倒されてうつになり、自爆テロリストになることを決意したと思われる自爆テロ犯の例はかなりある。
 例えば、姦淫の罪を犯してイスラム法に違反したハマスの自爆テロ犯リーム・ライシ(Reem Raiyshi)は、罪を許されなかったために自爆攻撃を行ったと犯行ビデオの中で認めている。
 別のケースでは、自爆テロ犯アヤト・アル・アクラス(Ayat Al-Alhras)がいる。彼女は18歳で未婚であったにもかかわらず、妊娠していることがわかった後、アル・アクサ殉教者旅団に自爆テロリストになることを志願した。
 また、タリバンとアルカイダのメンバーは、その宗教的な純粋性の主張にもかかわらず、驚くべき頻度でポルノをダウンロードしていることが示されている。もちろん、ポルノのダウンロード自体は、多くの国では、自殺と関連するものではないが、タリバンやアルカイダのメンバーにとっては宗教的な信念と矛盾した行動であり、自己非難、罪悪感を媒介としてうつ、そしてテロ志願に結びつく可能性がある。また、これが他人に発覚することを恐れる余り、精神的な不安定状態に陥る可能性も少なくない。

戦争自体のストレス
 もちろん、戦争やそれが先行きが見えないままずっと続くことは非常にストレスフルな経験であり、参加している兵士たちの中にうつや絶望感が蔓延する可能性も少なくない。これはもちろん、イスラムに限った問題ではない。
 例えば、2001年からアメリカ軍はアフガニスタン、2003年からイラクに侵攻しているが、戦争が長引くに伴って、アメリカ軍兵士の自殺者が増加している。興味深いことに、これとパラレルに、自爆テロリストの数も増加している。これは戦略の問題ではなく、精神的不安定に伴う自殺志願者の増加が原因である可能性がある。

導かれる仮説と対策
 以上のような一連の議論を検討してみると、おそらく、テロ組織が自爆テロリストをリクルートする場合、やはり、自殺志向性のある人物を探し出し、あるいは作り出し、あるいは志願するのを待って、自爆テロリストに仕立て上げている可能性は大きいと思われる。しか年し、プロパガンダ上、あるいは自分や家族の名誉から、テロリストのうつや自殺志向性は公言されないのであろう。
 ランクフォードや何人かの研究者は、もしそうだとすれば、自殺自体を防ぐような政策や広報がじつは自爆テロを減少させるために使えるのではないかと提案している。
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