テロと心理学(18)

ダークパーソナリティとテロリズム

テロと心理学(18)

ダークパーソナリティとテロリズム

法政大学教授  越智 啓太

ダークパーソナリティとは何か
 近年、テロ事案、とくにローン・オフェンダーによるテロ事案が発生すると、マスメディアや評論家の口からしばしば、「サイコパス」といった言葉が発せられる。また、一般の人も残虐な事件や複数の人を殺傷するような事件が発生すると、犯人のことを「サイコパス」ということが多い。
 しかしながら、これらの「サイコパス」という言葉の使い方は、必ずしも正しくない。多くの人は「サイコパス」の正しい意味を認識しないまま、単に「理解しがたい狂った快楽殺人鬼」としてそれを理解し、ラベリング(ラベル付け)を行っている。これは、テロリストや犯罪者の心理を理解するためには、余りよくないことだと思われる。表面的なラベル付けを行うことは、逆にその理解を妨げてしまう可能性があるからだ。
 しかしもちろん、サイコパスがよいパーソナリティであるということでもない。一般には、サイコパスは「悪いパーソナリティ特性」、つまり「ダークパーソナリティ」のひとつだと考えられているのは確かである。そこで、本稿では、サイコパスを始めとした、いくつかのダークパーソナリティについて紹介し、テロリズムとの関連について検討してみたいと思う。

サイコパス(psychopath)とは何か
 サイコパスについては、マスメディアやネット上では「狂った快楽殺人鬼」をさすことが多いが、サイコパスはパーソナリティのひとつの種類であって、「狂っていること」や「快楽殺人鬼」をさすものではない。精神疾患に罹患していることはむしろ少ないと思われる。
 では、サイコパスとは何か。最もよく知られているのは、ロバート・ヘア(Robert D. Hare)による定義であり、これによれば次の三つの特性を持つものをさす。つまり、(1)尊大で虚偽的な対人関係、(2)感情や共感性の欠如、(3)衝動性、無責任性、刺激の追求である。簡単にいえば、自分のやりたいことを衝動的に、相手の迷惑や苦悩を無視して行い、平然とウソを述べて非難や罪を逃れようとするものたちである。極度の自己本位主義といえるであろう。
 彼らの中には知的水準が低いものがおり、これらの人々は単なる衝動的な犯罪者として検挙されてしまうことが多い。しかし、問題は知的水準が高いものが一定数いるということである。このような人物が、たまたま殺人やレイプをしたいと思っていた場合、彼らは、躊躇せずに、冷徹にこれらの行為を繰り返す凶悪殺人犯になる。そして、つかまりそうになれば、平然とウソをつき善人を演じて罪や非難を逃れようとするのである。
 サイコパスの犯罪者として最も有名なのは、おそらく、テッド・バンディ(TedBundy)であろう。彼は、自分の好みの女性(20代で髪が長く、真ん中から分けている)を連続して30人以上に暴行を加えて殺害し、その後、裁判などでは自ら弁護人をつとめ、無罪を主張した。
 興味深いのは、サイコパスと殺人や犯罪傾向に直接的な関係はないということである。そのため、サイコパス特性を持っていても、犯罪者とならないものも少なくない。そして、このような特性を持っている人に「向いている」職業も存在することが分かっている。例えば、ケンブリッジ大学の心理学者、ケヴィン・ダットン(kevinDutton)は、企業経営者や勇敢な消防士、救急救命医など、冷徹で感情に流されてはいけないような仕事はサイコパスに向いており、彼らはその職業で卓越した成功を収める可能性があるとしている。事実、スティーブ・ジョブスは彼の余りにも自分勝手で他人を思いやらない行動からサイコパス特性を持っていたと指摘されることも少なくない。

テロリストはサイコパスか?
 では、テロリストにはサイコパスは多いのであろうか、あるいはサイコパスはテロリストになりやすいのか。初期のテロ研究者はテロリストの個人特性に注目していたことから、サイコパス特性に注目していた。そして、サイコパスとテロのつながりについて言及していた。テロリストは無差別爆破テロなどで一般市民を殺害することも多く、その際に他人の命などほとんど気にしないからである。また、リーダーとしても、非情な意志決定をすることが多いので、サイコパスはそれに適していると思われたのである。
 しかしながら、近年の文献では少なくとも、テロ組織に属しているテロリストに関しては、このような特性がとくに顕著であるわけではないし、彼らが政治的に過激化しやすいというわけでもないということが示されている。これはサイコパス特性がどちらかといえば、欲求や衝動を即座に満足させるという短期的な視野の行動パターンをすることに起因している可能性がある。一般にテロは長期的な展望や目標の下に行われるので、彼らの行動パターンとは相容れない可能性があるのだ。また、そもそも、彼らは「自分勝手」な行動をとるわけであり、国家的な大義などには余り興味がない。もし、それに興味があるように見えるのであれば、それは「国家的な大義ある行動に従事している」ことによって短期的な欲求が満たされる(例えば、性的に好みの女性に近づけるとか、部下などを虐待できるなど)からだと思われる。

サイコパスを精神鑑定で明らかにするためには
 ところで、ある人物がサイコパス特性を持っているかを診断するのは極めて難しい。なぜなら、彼らは平然とウソをつくことができ、その場において適切な人物を演ずるテクニックに長じているため、本来の自分のパーソナリティが診断しにくいからである。司法の場においては、実際にはサイコパス特性を持っていても、それを表面に出してしまうことは、厳しい判決に結びつく可能性があるため、彼らは自分のサイコパス特性を隠すことが少なくない。そのため、サイコパスの診断は、心理尺度(質問紙方式の自己診断テスト)では、できず、訓練を受けた面接者が時間をかけて面接する方法が使われる(ヘアによって開発されたPCL-Rという面接手法が用いられることが多い)。
 しかしながら、自分自身のサイコパス特性を判断したいというニーズも存在するのは事実である。そのため、被検査者が正直に答えることを前提にしたサイコパス診断用の心理尺度がいくつか開発されている。そのうち、日本でよく使われている日本語版DarkTriadDirty Dozen(DTDD-J)尺度のサイコパス診断項目を以下に挙げておく、実際にはこれらの質問に5件法で回答するのであるが、これらの質問に当てはまる度合いが大きければ、サイコパス特性を持っているということになる。


サイコパス傾向

・私は余り自分の過ちを認めることがない
・私は自分の行動の善悪には余り関心がない
・私はどちらかというと冷淡で人の気持ちを気にしない
・私はどちらかというと疑い深くひねくれた人間である

田村紋女・小塩真司・田中圭介・増井啓太(2015)日本語版 Dark Triad Dirty Dozen(DTDD-J)作成の試みパーソナリティ研究24(1)、26-37

マキャベリアリズム(Machiavellianism)とは何か
 二つ目のダークパーソナリティは、マキャベリアリズムである(マキャベリズムともいう)。これはもちろん、「君主論」を書いたルネッサンスの思想家ニッコロ・マキャベリの名前から来ている。マキャベリは、「目的のためには手段を選ばず権謀術数の限りを尽くすやり方」を主張したとして知られている(実際は必ずしもそうではない)。
 そのため、「目的のためなら手段を選ばない」ような性格のことをマキャベリアリズムと呼ぶのである。以下に、マキャベリアリズムを自己評価する尺度の項目を挙げてみたので、自分がどの程度、この特性を持っているのかを確認してみてほしい。


マキャベリアリズム傾向

・私には他の人を操っても自分の思いどおりにするところがある
・私には他の人を騙したりウソをついたりしても自分の思いどおりにするところがある
・私には他の人にお世辞をいっても自分の思いどおりにするところがある
・私には自分の目的のために他の人を利用するところがある

田村紋女・小塩真司・田中圭介・増井啓太(2015)日本語版 Dark Triad Dirty Dozen(DTD-DJ)作成の試みパーソナリティ研究24(1)、26-37

テロリズムとマキャベリアリズムとの関連
 マキャベリアリズム傾向の高いものは、集団を支配し、他人を操る傾向があるので、所属集団や職場を混乱させる傾向がある。しかし、彼らが長期的な展望を持つことやカリスマ的な魅力を作り出す可能性があることから、テロ集団においてその特性は有利に働くことが予想され、テロ集団の中にはマキャベリアリズム傾向の高いものが多いのではないか考える研究者もいる。
 ところが、実証的な研究ではこの予測は必ずしも明確に示されていない。これは、マキャベリアリズム傾向が高い人々も結局のところ、「自分本位」であり、社会や他者のことを本気で考えるような「大義」には関心がないためだと思われる。マキャベリアリズム傾向が高い人々が、テロ集団に所属して活動するかどうかは、サイコパスと同様にそれが自分にとって有益かどうかに左右される。

マキャベリアリズムとサイコパスとの違い
 ところで、サイコパスとマキャベリアリズムは、自分のためなら他人を平気で騙し、操るという共通する特徴を持っているので、類似しているものだと捉えられることが多い。また、あとで述べるように、マキャベリアリズムとサイコパス特性は高い相関を持っている。しかしながら、この二つの概念は厳密には異なっている。とくに大きく異なるのが、サイコパスが、基本的には短期的な視野と衝動性、無謀性で行動し、それをリカバリーするために自分を演じたり、ウソをついたりすることが多いのに対して、マキャベリアリズムはより長期的な視野で他人を操るという点である。マキャベリアリズムが高いものの方が一般に用心深く、状況適応的で、現実的である。

マキャベリアリズムとサイコパスのテロ集団選択の違い
 これを実証的に示した興味深い研究がテキサス大学のダニエル・ジョーンズ(Daniel N. Jones)によって行われている。彼が対象にしたのは、黒人に対する人種差別論者である。彼の仮説によれば、同じ黒人差別論者であっても、サイコパス的なものとマキャベリアリズム的なものでは、行動が異なるというのである。具体的には、サイコパスの黒人差別論者は、短期的な展望で行動するため、直接的な暴力や攻撃、非難を行い、黒人は知能や人間性が低いといった主張を行う傾向があり、組織としてはやはり直接行動に出ることの多いネオナチに所属する傾向がある。一方でマキャベリアリズム傾向の高い黒人差別論者は、長期的な展望で行動するため、より政治的な主張を行い、アファーマティブアクションへの反対や白人の文化伝統の尊重といった主張を通して黒人差別を主張する。また、組織としてはより合法的なKKK(近年のKKKは暴力的な直接行動ではなく、白人の権利を守るための運動を行っていると主張しており過激なグループとはむしろ距離をとる傾向にある)に所属する傾向があるというのだ。
 黒人をのぞくアメリカ人を対象にした調査によってこの仮説はほぼ裏付けられた。興味深いのはサイコパス傾向とネオナチへの所属希望がr=0.36という高い相関を示したことである。

ナルシシズムとは何か
 第3のダークパーソナリティは、ナルシシズムである。この言葉は、日常会話でもよく使われる言葉であり、また、その言葉の語源が、池に映った自分に恋をしたナルシスの伝説から来ていることも有名な話である。簡単にいえば、自己愛、つまり、自分のことが好きであるということである。
 具体的なイメージをつかむとともに自分のナルシシズム傾向をつかむために、以下にナルシシズム傾向を測定する心理尺度の項目を挙げておく。


ナルシシズム傾向

・私は他の人から立派な人物だと思われたいほうだ
・私は他の人から注目してほしいと思いがちだ
・私は高い身分や名声を手に入れたいと思いがちだ
・私は他の人からの特別な好意を期待しがちだ

田村紋女・小塩真司・田中圭介・増井啓太(2015)日本語版 Dark Triad Dirty Dozen(DTDD-J)作成の試みパーソナリティ研究24(1)、26-37

なぜナルシシズムが危険なのか
 ナルシシズムが「ダーク」だというと、多くの方が首をかしげるかもしれない。ナルシシズムに近い概念としては、「自尊心」、「自己肯定感」などがあり(相関はr=0.3~0.4程度である)、ポジティブな自己概念を持っていることを意味する。歴史的に、自分に対してポジティブな自己概念を持つことはよいことであると思われてきたわけであり、小中学校の教員はいまでも「自尊心(自己肯定感)を育てましょう」ということを目標としているからである。
 しかしながら、研究が進むにつれてこのナルシシズムは危険な性格特性であることが分かってきた。なぜなら、この傾向の高いものは、自分を世界の中心であると考え、自分の価値を過大評価し、自分を常に優先し、自分の非を認めず、他人を見下す傾向があるからである。また、暴力性とも関係していることも知られている。これは自分を否定するものや非難するものは許さないと考えやすいからである(藤子不二雄氏のマンガ『ドラえもん』において、ナルシシズム傾向が高く、自尊心が高いキャラクターはジャイアンである。現実社会では、彼は不適応な危険人物である可能性が大きい)。

テロリズムとナルシシズムとの関連
 ナルシシズムはテロとの関係でいえば、自分の所属集団の優位性を主張するという行動と関係していることが容易に推測できる。そのため、人種や集団差別行動に結びつきやすく、場合によっては実力行使に発展する可能性もある。ただし、近年オークランド大学のボリス・ビズミック(Boris Bizmic)とジョン・ダキット(JohnDuckitt)はナルシシストが人種差別集団に所属している場合、対象集団を攻撃する場合には、集団に対する一体感が強まるのに対して、集団内の活動においてはまさに自分がナルシシストであるがゆえに、自分はこの集団の中で特別な存在であるとして、ほかの集団メンバーとの間に軋轢が生じる可能性があることを指摘している。

ダークトライアド(dark triad)
 ここまで挙げてきた3種類のダークパーソナリティの間には、相互に相関があり、サイコパスとマキャベリアリズムの間にはr=0.61の、サイコパスとナルシシズムの間にはr=0.21の、マキャベリアリズムとナルシシズムの間にはr=0.64の相関があることが分かっている。相関は二つの特性の関係性を示す数字で0だと無関連、1だと完全な関連があるとする指標である。心理学では、0.6以上の相関は非常に高いものと考えられる。
 ということから、この三つの特性を同時に持っている人も十分存在する可能性がある。この三つの特性をダークトライアドという。トライアドとは三つ組のことである。

四番目のダークパーソナリティとしてのサディズム
 最近では、このダークトライアドに加えてもうひとつのダークな特性が取り上げられることが多い。これはサディズム(sadism)である。サディズムは、残酷な行為やいじめ、他人を痛めつけることなどに対して快感を得るような性格特性のことである。ダークトライアドにサディズムを加えたものを「ダークテトラッド(DarkTetrad)」という。テトラッドは「四つ組」のことである。
 サディズム傾向を自己診断する心理尺度もいくつか作られているが、以下にそのうちのひとつを挙げてみる。


サディズム傾向(尺度の内の一部)

・ときどき血みどろのホラー映画のお気に入りのシーンを繰り返して見る
・高校時代に誰かにわざと残酷なことをした。
・人を苦しめるのが好きだ
・負け犬を面と向かって嘲笑するのが好きだ

Buckels, E. E., Jones, D. N., & Paulhus, D. L. (2013). Behavioral confirmation of everyday sadism. PsychologicalScience, 24, 2201-2209

テロリズムとサディズムとの関連
 テロリストグループの中には一部の非常に残虐なメンバーがおり、拷問や処刑ビデオの作成などに関わっていることが多い。例えば、イスラム過激派組織ISILのジハーディ・ジョン(Jihadi John)と呼ばれる人物は、日本人の人質、湯川遥菜やフリージャーナリストの後藤健二、アメリカの救援活動家ピーター・カッシグや数多くのシリア兵を斬首したビデオに映っている。このような拷問や殺人に特化したメンバーの中には、サディズム傾向が非常に高いものがいる可能性がある。

ダークテトラッドと政治的過激化の関連
 今まで述べてきたように、サイコパス、マキャベリアリズム、ナルシシズムのダークトライアドの各特性はそれぞれ個別に見ていくと、テロとの関係はありそうではあるが、じつはそれほど明確でない。サディズムとテロリズムの関係については、ほとんど研究されていない。
 しかしながら、これらの特性の二つあるいは三つ以上を兼ね備えている場合には、テロとの関係性はより強固になる可能性がある。これに関係したトゥルーズ大学のアンリ・シャブロルらのグループの研究を見てみよう。
 彼女らは、ダークテトラッドの特性を持つ女性は、政治的なプロパガンダに影響されて、(宗教的)過激主義者となりやすいかについて検討した。18歳~29歳の女性が調査対象になり、ダークテトラッドの各特性を測定する心理尺度と「過激な宗教的行動・態度の受容性尺度」が実施された。この尺度は、「他の宗教の人々の所有物を傷つけることは許されますか」などの質問から構成されていた。
 分析の結果、ダークテトラッドの合計点が高いものは、低いものに比べて、また、ナルシシズム傾向のみが高いものやマキャベリアリズムのみが高いものよりも、より宗教に対する過激思想を持ちやすいということが明らかになった。
 現在、ダークパーソナリティとテロリズムの関係について、まだ、完全に明らかになっているわけではない。しかし、この概念は、テロリズムを理解するためには重要な手がかりになる可能性を持っている。