テロと心理学(17)

イスラム過激派女性自爆テロリストの行動と心理

テロと心理学(17)

イスラム過激派女性自爆テロリストの行動と心理

法政大学教授  越智 啓太

イスラム過激派の女性自爆テロリスト
 イスラム過激派にとって、女性自爆テロリストは特別な意味を持つ。そもそもイスラム教においては、兵士は男性であり、女性は母親や妻として家庭内での役割を担うことが期待されている。テロに関してもバックヤードでの支援の役割は担うことがあるにせよ、戦闘などの役割を直接担わないはずであった。そして、実際、以前は多くのテロリストリーダーたちもそのように公言してきた。しかしながら、現在、女性自爆テロリストは、テロ対策において非常に大きな脅威となっており、「思想的にも、組織の構成員の役割としても、地域的にも “ideologically, logistically and regionally”」テロにおける女性の役割は拡大しているといわれている。
 そこで、本論では、(1)女性が自爆テロを行うようになった歴史的経緯、(2)女性自爆テロの戦術的有効性、(3)女性自爆テロリストは男性のテロリストよりも危険か、(4)女性テロリストが自爆攻撃に参加する動機について従来の研究を基に紹介してみたいと思う。

女性自爆テロリストの誕生
 歴史的に見ると、テロにおける「女性」は偽装されるものや脇役として登場してきた。例えば、男性テロリストが発見されないように女装してターゲットに接近したり、やはり発見を逃れるために男性テロリストが女性とペアを組んだりして作戦を実行するなどである。自爆攻撃に関しては、1950年代にベトナム戦争において女性が自爆攻撃を行ったという記録があるが、自発的にテロとして自爆攻撃を行った最初の女性は、シリア社会民族党のサナア・ユーセフ・メハイドリだといわれている。彼女は爆弾を積んだ車に乗ってイスラエル軍の車列に突っ込んだ。
 その後、女性を自爆テロに使用するというアイディアは、1990年代に、タミルイーラム解放の虎やクルディスタン労働者党(PKK)、アル・アクサ殉教者、そしてチェチェン反政府勢力に広がり、その戦術的な有効性(後述)が認識されるようになると、さらに全世界的に広がっていった。スリランカのタミルイーラムの場合、自爆テロリストの30~40%が女性によるものである。
 この戦術を使用したのは、左翼や反政府テロリストが最初であった。イスラム過激派は、女性自爆テロリストを使用するには、少し時間がかかった。その理由は、最初にあげたようなイスラムの男女観や女性が付き添い(マフラム)なしで旅行してはならないという社会的制約、そして、自爆テロを遂行できる男性が十分いるので、女性を動員するまでもないと思われていたからであろう。


最初の女性自爆テロリスト
 シリア社会民族党党員のサナア・ユーセフ・メハイドリは、1985年4月9日に、爆発物を搭載したプジョーをジェジン(占領下の南レバノンの町)のイスラエル軍の車列に、突っ込ませ、自爆した。イスラエル国防軍(IDF)の兵士が死亡し、12人が負傷した。彼女はそのとき、16歳であった。1975年からはじまった紛争で、イスラエルとシリアは南レバノンの支配権を争ったが、彼女は占領下の南レバノンの解放をもとめていた。彼女は殉死に際して、母親に青い包装紙に包まれた香水と青いネックレス、そして手紙を送ったが、その手紙の中には、南レバノンの解放のために殉死する決意と、私を誇りにして胸を張って生きるようにという母親へのメッセージが含まれていた。彼女は自爆要員になることを自ら志願したが、他のメンバーの多くは彼女に思いとどまるように説得したという。彼女はこの自爆攻撃によって「南の花嫁」と呼ばれて伝説的な存在となっている。


イスラム過激派による女性自爆テロリスト戦術の開始
 ところが、その戦術的な有効性ゆえ、イスラム過激派集団も次第に、自爆テロに女性を使用するようになってくる。ジョージア州立大学の中東専門家ミア・ブルームは、『ワシントンポスト』への寄稿論文の中で、その経緯を以下のようにまとめている。
 まず、イスラム過激派集団の中で、イデオロギーの変化があった。当初は、女性をジハードの兵士とすることについて反対論も多かった。しかし、最終的には、ジハードにおける女性の義務は男性と同等であるとするファトワー(イスラム法学に基づいて発令される勧告、布告、見解、判断のこと)が発布された。これは主に、カタール在住のエジプト人聖職者、シェイク・ユスフ・アル・カラダウィが主導したもので、彼は女性を自爆テロリストとして使うことを理論的に正当化した。
 次に、アルカイダの組織の変化が関係している。アルカイダの勢力が拡大し、各地域を中心に独自の活動をする形に変化していくとその過程の中で、各支部において、女性をジハード戦士として採用するハードルが下がっていった。最初に女性を使用し始めたのは、イラクのアルカイダ、アル・シャバブ、チェチェンとダゲスタンのチェチェン過激派グループ、パキスタンとウズベキスタンのグループなどで、2005年頃から女性を自爆テロに使うようになった。その後、アフガニスタンのタリバンも女性自爆テロを行うようになった。
 第3に、標的の変化があった。テロ組織の攻撃対象が、軍事や政治目標などのハードターゲットから、市場や商店などのソフトターゲットに移行した。このようなターゲットには、男性よりも女性の方がはるかに侵入、接近しやすく、攻撃が容易であった。


女性による自爆テロの事例

◯ 1991年5月21日、インドのタミル・ナードゥ州スリペルンブドゥールで、元首相ラジブ・ガンディーが自爆テロによって殺害された。犯人は、22歳の女性、カライヴァニ・ラジャラトナムで、スリランカのタミル分離主義反政府組織タミル・イーラム解放の虎(LTTE)のメンバーだった。彼女は、選挙集会に到着したガンディーに近づき、挨拶し、直後にドレスの下に隠していたRDX爆薬を装填したベルトを爆発させた。 爆発によりガンディー、暗殺者、その他14人が死亡、その他43人が重傷を負った。
◯ 2002年4月12日、エルサレムの青果市場であるマハネ イェフダ市場の入り口にあるバス停で自爆テロが発生し犯人1人、民間人6人が死亡、104人が負傷した。犯人は、パレスチナ人の17歳女性アンダリブ・スレイマン。彼女は爆発物と釘が詰まったハンドバッグを爆発させた。彼女は、未婚にもかかわらずファタハの工作員によって妊娠させられ、予期せぬ妊娠による精神的、社会的影響が背景にある可能性がある。アル・アクサ殉教者旅団が犯行声明を出している。
◯ 2008年2月1日バクダットのがガジル広場で開かれていたペット市場(毎週のように開かれている催し物で、何回もテロの標的になっている)で、鳥を売っているという2人の女性の周りに客が集まった段階で、女性の服の下に仕込まれていた爆弾が爆発し、99人が死亡し、200人以上が負傷した。
◯ モスクワ地下鉄爆破テロ:2010年3月29日午前7時55分、モスクワの地下鉄ソコーリニチェスカヤ線のルビャンカ駅で停車中の列車の前から2両目で爆発が発生し、犯人を含む26人が死亡し20人が負傷した。この爆発から約30分後に4駅離れたパールク・クリトゥールイ駅で停車中の列車の前から3両目で爆発が発生し犯人を含む13人が死亡し15人が負傷した。TNT爆薬を使用した自爆テロであった。最初の爆発の犯人は、ダゲスタン共和国の28歳の女性で情報科学の教師であった。2番目の爆発の犯人は、殺害されたイスラム武装勢力の戦闘員の妻のジェネット・アブドラフマノワで17歳だった。
◯ ホロ爆弾テロ事件:2020年8月24日フィリピン陸軍関係者がスールー州のホロでCOVID-19の人道支援活動を行っていたところ、オートバイに仕掛けられた爆弾が爆発し、兵士と民間人13人が死亡した。この事件の処理のため、近隣地域を閉鎖していたところ、事件から約1時間後に一人の女性がこのエリアに侵入しようとした。これを兵士がとめようとするとその女性は持っていた爆弾を爆発させ、兵士が死亡し警察官6人が負傷した。犯行は、スールー州のフィリピンからの独立を支持してテロ攻撃を行ってきたイスラム過激派集団アブ・サヤフによるものであった。

女性自爆テロの戦術的有効性
 すでに述べたように、女性による自爆テロは戦術的にも多くの利点を持つ。
 まず、発見が困難であるという利点がある。テロの専門家であるジェシカ・スターンは、ビザ申請や外国人居住許可、入国等におけるテロリスト識別マニュアルにおいて、主に対象とされているのは、16歳~45歳の男性であり、現にテロ対策担当者はいまだに、テロリストは男性であるというステレオタイプを持っている。そのため、女性テロリストは、監視網から逃れやすいと述べている。
 第2に、ターゲットへの接近容易性がある。これも基本的には、第1の利点と同じなのであるが、テロリスト=男性というステレオタイプは一般市民にも共有されているので、ラジブ・ガンディー元首相などの要人に接近しやすく、また市場やコンサート会場にも侵入しやすい。これもターゲットへの接近をより容易にする。
 第3に、イスラム教の服装、長いローブ、ゆったりとしたシャツ、ベール、全身を隠すドレスは、爆弾を隠しやすい。また、爆弾ベルトをつけていることによって腹部が膨らんでも、妊娠に見せかけることが可能である。イスラム教徒の男性警察官や治安関係者は女性を身体検査することに抵抗があるので、発見されにくい。
 第4に、ステレオタイプどおりの若い男性の、そしていまやありふれている、自爆テロよりも若い女性による自爆テロの方が社会的なインパクトが大きく、メッセージ性、プロパガンダ性がある。
 最後に、これは自爆テロに限ったことではないが、テログループに女性を含めることは、男性のテロリストのリクルートに有利だということである。女性テロリストは、主にオンラインサイトを通じて、男性をリクルートし、ジハードに参加することこそ、男らしいと説得することができる。実際多くの男性テロリストがこのような方法によってテロリストになっている。

女性自爆テロリストは男性テロリストよりも危険か
 では、女性による自爆テロは、男性による自爆テロに比べてより致死性が高く危険なものなのであろうか。この点を分析したのが、シカゴ大学の国際関係論の研究者ブルグ・ピナール・アラコックである。
 彼女は、メリーランド大学が運用するグローバル・テロリズム・データベース(GTD)、ここには1970年以降に世界中で発生したテロ事件20万件以上についてのデータが集積されている、から447件の自爆テロを無作為抽出して分析を行った。
 ポアソン回帰モデルによる分析を行ったところ、まず、男性の自爆テロリストに比べて、女性の自爆テロリストの方が、多くの人を殺していることがわかった。
 また、彼らはふたつの具体的なケースについてのシミュレーション研究も行っている。ひとつは、2006年のイラク、もうひとつは2015年のナイジェリアである。イラクはイスラム国の、ナイジェリアはボコ・ハラムの活動地であるが、これらの国はさまざまな点で対照的である。これらの国で男性と女性がそれぞれ自爆テロを行った場合、どの程度の死者がでるかを、上記の分析結果をもとに、さまざまな条件下でシミュレートしたところ、次頁の図のようにどちらのケースでも女性が自爆テロを行った場合の方が死者数が多くなることが予測された。
 また、このような女性による自爆テロの致死性の大きさは、ターゲットが軍人やVIPである場合よりも無差別であるほど、顕著になることが示された。

女性自爆テロリストの動機
 では、女性自爆テロリストはなぜ、自爆するのであろうか。これに関しては、女性はテロリストリーダーに騙されて自爆させられているとか、「自爆」ではなく遠隔操作によって爆破されており、たんに爆弾を運ぶ乗り物として兵器化されただけだという見解もある。
 しかしながら、生き残った女性自爆テロリストたち、女性男性女性男性例えば自爆スイッチを押したが不発だった場合や自爆する前に拘束された場合など、に対してインタビュー調査を行ったジャーナリストや研究者たちが明らかにしたのは、彼女らのほとんどは、自爆し死亡することを知った上であえてテロに参加していたことである。

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生き残った自爆テロリストのケース
 2005年11月9日、ヨルダン・アンマンの3つのホテルで連続した自爆テロが発生した。この中でもっとも多くの死者を出したのは、ラディソンSASホテルのものであった。アルカイダに所属するサジダ・アル・リシャウィと夫のアリ・フセイン・アリ・アル・シャマリは、ホテルの大宴会場で開かれていた900人規模の結婚式に侵入し、自爆テロを決行した。最初に夫が自爆し、続いてリシャウィも爆発物のベルトを起爆しようとしたが起動しなかった。彼女は、逃げ惑う群衆に紛れてホテルから逃げ出したが、4日後に検挙された。シャマリは当初、自爆テロについて自白したが、その後、夫に強要されただけであると証言を変えた。
 彼女は、アルカイダのテロリストリーダー、ザルカウィの側近の妹と考えられている。イラク戦争の空爆で兄や他の兄弟を失い、強い反米感情を持っていた。2015年の時点で彼女はヨルダンで拘束されていたが、この年、イスラム国は、ヨルダン政府に対して日本人の人質、後藤健二氏と引き換えにリシャウを釈放するように要請した。しかし、この交渉は上手くいかず、後藤健二氏は殺害された。その後、リシャウも死刑が執行された。


自爆テロリストの動機の性差
 イギリスのランカスター大学の心理学者カレン・ジャケとポール・テイラーは、女性自爆テロリストの動機を明らかにするために、男性自爆テロリストとの比較研究を行った。彼らは、30人の女性自爆テロリストと30人の男性自爆テロリストの資料、これらは書籍、雑誌、新聞、ネット等から収集された、を詳細に分析し、彼らの動機を4つのカテゴリーに分類した。
 まず、「個人的動機」は、家族の不和や離婚、金銭などの問題、社会的な規範から外れてしまったために社会から排斥されたことなどを自爆テロに参加した理由としてあげたものである。「復讐」は家族や配偶者を殺した敵への復讐やユダヤ人ヘイトなどを動機としてあげたもの、「トラウマ」は家族の死などを目にしたり、自分自身が辱めを受けたりしたことなど衝撃的できっかけとなる出来事をあげたもの、「宗教・国家主義」は、宗教に従って生きるのが自分の人生であるとしたものや、殉教の夢をみた、国家への愛などをあげたものである。
 これらをさらに細かく分類し、男女別に集計したものを次頁の表に示す(割合の少ない小分類は省略している。重複して分類されているものもあるので、合計は100%を超える)。
 この結果は、男性自爆テロリストは、宗教的な理由、ナショナリズム的な理由によって自爆テロを行うのに対して、女性はより個人的な理由や復讐心によってそれを行うことを示している。また、興味深いことに、自爆テロ要員となるために自らテロ集団に接触して、テロリストになるのは男性よりも女性の方が多いことも明らかにしている。
 女性にとって、制約の多いイスラム社会においては望まぬ妊娠や社会的な規範から逸脱したことによる名誉の失墜、社会からの排斥が発生しやすく、これらがうつを引き起こし自殺願望が生じてきたり、社会的地位の回復(自爆テロを行うことによって名誉が回復する)を目指すことによって自爆テロへと彼女らを誘導したりしている可能性もある。また、配偶者からの暴力などに耐えかねてこのまま生きるよりは、自爆して死ぬ方がましだと考えるものも存在すると指摘されている。

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兵器としての女性自爆テロリスト
 ただし、カレン・ジャケらの研究は2008年に刊行されているものであり、その後のテロの状況は異なっている可能性もある。とくに近年の女性自爆テロの多くはボコ・ハラムによるものである(2014年以降、100人以上の女性に自爆テロを行わせている)が、彼女らは拉致されて監禁、洗脳されて兵器として仕立て上げられたり、脅迫されて爆弾ベルトを装着され人混みに立たされた上で遠隔操作で爆破されたりしている可能性がある。
 女性自爆テロリストの状況はここ十年程度でも大きく変化しており、今後のテロの動向を予測する上でも非常に重要な現象となっている。