インテリジェンスこぼれ話(第37回)

米国務省職員による国防情報漏洩事件~中国によるオンライン・リクルート~

インテリジェンスこぼれ話(第37回)

    米国務省職員のマイケル・シェイナは、2025年9月4日に、スパイ防止法第793条(合衆国法典第18篇第793条)違反(国防情報漏洩罪)で4年間の拘禁刑を宣告されました。彼は、中国政府の工作員によってオンラインでリクルートされ、国務省の極秘情報や取扱注意情報を提供して報酬を得ていたのです。
 シェイナは、有罪答弁をしたため、犯罪事実を記載した判決書もなく、詳細な事実関係は分かりませんが、オンラインでリクルートされた事件であることや摘発に至る端緒情報に関して、大変興味深いものがあります。そこで、事案の概要について、FBIの宣誓供述書(2025年3月3日付)や司法省の報道発表、そして裁判を取材した報道に基づいて、見ていきたいと思います。

マイケル・シェイナの人となり

マイケル・シェイナ(判決時42才)は、ワシントンDC南郊のバージニア州アレクサンドリア市在住の国務省職員でした。
 本人のLinkedIn(ビジネス特化型SNS)の記載によれば、ルイジアナ州立大学で、2004年に政治行政学で学士号を、2006年に国際関係論で修士号を取得して、2007年1月に国務省で正式採用となりました。国務省入省の前には、エネルギー・インフラ関連企業で勤務したり、中国で短期間の英語教師をしたり、国務省で2006年前半の半年間にわたりインターンを経験しています。
 シェイナは、国務省職員として様々な勤務をしてきました。本人のLinkedInの記載によれば、国務省では、交渉力や分析力を身につけ、行政やインテリジェンス、中央アジア、カリブ海諸国に詳しいと自己紹介をしています。業務分野としては、国務省本省で経済問題や移民問題を担当する期間が長く、その間にパプア・ニューギニア、カタール、スリランカなどにも短期間駐在しています。地域的には、カリブ海諸国の担当が長く、2022年1月からは、国務省本省の西半球局でカリブ海諸国担当をしていました。
 なお、本人は国務省における勤務歴をLinkedInに詳しく記載しており、このような情報が、中国インテリジェンスによるリクルートの端緒情報となったものと考えられます。

中国によるリクルートと情報漏洩の経緯

    シェイナは、2022年4月頃、インターネット空間で中国の工作員によってリクルートされ、それ以来、様々な通信プラットフォームを使用して国務省の情報を提供し、報酬を得ていました。しかしシェイナは、2025年2月27日に国務省で極秘文書データをスマホに撮影して持ち出したところを捕捉され、同3月3日にFBI捜査官が刑事告発のための宣誓供述書を作成、同3月7日に起訴し、同6月3日に自ら有罪答弁をして、同9月4日に拘禁刑4年の宣告が言い渡されました。
 シェイナは、情報を漏洩した2022年4月以降の期間には、トップ・シークレット(機密)のセキュリティクリアランスを保持していましたが、実際に職場でアクセスしていた情報は、シークレット(極秘)レベルにとどまっていました。また、自宅のリモートワークでは、国務省支給の端末を使って、取扱注意(SBU:Sensitive But Unclassified)レベルの情報を取り扱うことが可能でした。
 さて、リクルートの経緯ですが、シェイナは、2022年4月11日、国際コンサル企業の社員を自称する者からSNSを通じて、同企業のために働く気はないかと勧誘を受けました。

筆者注
:シェイナと通信した中国の工作員は、ジェイソンと名乗った者のほかに、1人以上いたと推定されます。

    それに続く2週間、シェイナと工作員は、ビデオ会議の日程を調整したり、報酬の支払方法についてやりとりをしたりしました。そして5月18日には、工作員は、100ドルを送金しようと5回試みて失敗したものの、その後、500ドルの送金になんとか成功しました。その6時間後に工作員は、シェイナに写真(複数)を高解像度で再送信するように依頼しています。この500ドルの送金は、シェイナが写真や情報を送信したことに対する報酬と見られます。
 また2022年6月19日には、シェイナは国務省の取扱注意文書を工作員にメール送信し、6月21日には、オンラインで500ドルの報酬を得ています。
 これらの送金を含め、2022年5月から2023年3月の間に、シェイナは、様々なアカウントから10回以上オンライン送金を受けており、そのうち5回について、送金者はジェイソンと称する者となっていました。
 さらに2023年5月から2025年2月の間に、オンライン決裁システムによって、様々なアカウントから妻名義のアカウントに対し、122ドルから1,000ドルまでの送金が90回以上も行われており、この間の送金総額は3万7,000ドルを超えていました。

筆者注
:送金先を妻名義のアカウントに変更したのは、当局による探知を避けるためであったと推定されます。

    2024年8月、シェイナは、休暇でペルー旅行をしましたが、その際、中国の工作員とテキストメッセージで連絡を取り合って、リマ市内のホテルで接触し、1万ドルとiPhone14を受け取り、今後の通信はこのスマホを使うように指示されました。
 FBIがシェイナのスマホのiCloudから得た情報では、ジェイソンからの1万ドルとiPhone14の受領に関する8月30日付けの記録がありました。このスマホは、外国の電話番号で登録されており、捜査当局に探知されずに情報のやりとりをする手段として手交されたものと考えられます。
 2024年10月には、シェイナは、ペルーで受け取ったスマホを使って、国務省執務室で、秘密情報システム内に保存されている極秘情報4件以上の写真を撮影し、中国に送信しました。

筆者注
:国務省の秘密情報システムとは、CLASSNETというシステムで極秘(Secret)レベル以下の情報を取り扱えるもので、インターネットとは接続されていない閉鎖システムです。

    2025年2月17日に、シェイナは、アレクサンドリア市の自宅から、国務省の情報システムにアクセスして、取扱注意文書をダウンロードしました。シェイナは、同文書を国務省のメールアカウントから個人のメールアカウントに送信しようとしましたが、取扱注意文書のメール送信は国務省の規則違反であるとの警告が表示されました。そこでシェイナは、取扱注意文書を一般文書に再仕分けをして、個人のメールアカウントに送信したのです。

筆者注
:この文書は、中国の工作員に送信されたものと推定されます。

    2025年2月27日、この時点ではシェイナの執務室はカメラの監視下に置かれていましたが、シェイナは、業務用の端末から国務省の秘密情報システムにアクセスして、7件の極秘文書を呼び出し、画面をスマホで撮影しました。その後、シェイナは国務省を出て自宅に向かいましたが、自宅の前で職務質問を受け、スマホを押収されました。スマホには極秘文書の写真データが保存されているのが確認され、中国の工作員宛に送信される前に押収されたのです。
 シェイナが実際に中国の工作員に提供した情報は、ここで紹介した情報だけではなく、もっと多かったものと考えられますが、以上がFBI捜査官の宣誓供述書や司法省報道発表等で明らかとなった情報漏洩の経緯です。

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