◆連載エッセイ◆ 薬物捜査指揮官への道(第3回)
即断
私は他人から「長所は?」と聞かれたら、「楽観的なところ」と答えるようにしている。
一般的なイメージとしては、「楽観的=前向き⇒長所」「悲観的=後ろ向き⇒短所」、となるのだろう。
捜査員は「超楽観主義」でいい。常に前に突き進み、立ちはだかる壁は勢いで突破し、失敗してもすぐに立ち直るのだ。
では、捜査指揮官は、どちらのタイプが向いているのだろうか?
危機管理では、「最悪を想定し、最善を尽くす」という原則がある。
はたして、根っからの楽観主義の指揮官に、最悪を想定することなどできるのであろうか?
心理学に「防衛的悲観主義」という考え方がある。これは、目標達成の前に、あえて「最悪の事態」を想定し、その不安をモチベーションに変えて徹底的な準備を行うことで、結果的に成功を高めるという認知的戦略だそうだ。
その反対に「悪しき楽観主義」というのがあって、「自分は絶対大丈夫」と根拠もなく楽観視することとある。
捜査指揮官には、「悲観主義者」か「楽観主義者」か、どちらか一方が良いということではなく、現実を冷静に把握する悲観的な視点と、困難を精神力で乗り越える楽観的な視点の、両方を持ち合わせることが求められているのではないか。
京セラ、KDDIなど日本を代表する世界的企業の創業者で、人間性や哲学に重きを置く経営を貫き通した「哲人経営者」稲盛和夫氏は、こんな言葉を遺している。
これは、大きな夢は楽観的に描き、その実現には徹底的に悲観的なリスク想定と準備を重ね、実行段階では「必ずできる」という強い信念と明るさで取り組む、という経営哲学である。
まさに、捜査にも通じるだろう。
理想の捜査指揮官像とは、どれかに偏りがあるものではなく、「楽観と悲観」「冷静と情熱」「慎重と大胆」「協議と独断」「優しさと厳しさ」など、一見相反するものの双方を持ち合わせ、かつ、そのバランスが優れた人物ではないだろうか。
しかし、そんな完璧な人間など希有である。
捜査指揮官への道は、日々是修行、遠き道を行くが如し、なのである。
ところで、「血液型B型」の捜査幹部諸兄……。
ネットの性格診断によると「考えるより即行動、周りの空気を読まず、我が道を突き進む」らしい。
お互いに気を付けましょう(笑)。
さて、ここまで捜査指揮には、石橋を叩く慎重さが必要という話をしてきた。これは、捜査指揮官の「平時における顔」である。
しかし、事件というものは突然に発生する。検討に検討を重ねる十分な時間もなく、その場で「イエス」か「ノー」かを決断しなければならない場面に直面することも少なくない。では、捜査指揮官の「有事における顔」はどうあるべきか?
今回は、そんな有事における「即断」に迫られた2つの事件をお話ししよう。
なお、これらの事件は、すでに捜査も公判も終わっており、捜査手法も薬物捜査では特に目新しいものではなかったが、他警察による捜査については私が話せる立場にはないため、お話しすることで支障を来す部分については伏せていることをご了承願いたい。