実務刑事判例評釈(case 368)

[case 368]大阪高判令8.1.20

実務刑事判例評釈(case 368)
法務省刑事局付  福谷ふくたに 将寛まさひろ
[case 368] 大阪高判令8.1.20

被告人及び同人の運転手が、被告人の内妻が同乗していないのに、同内妻名義のETCカードを使用してETCレーンを通過し、高速道路管理会社が管理する電子計算機に当該ETCカード情報等を送信させた行為につき、「虚偽の情報」(刑法246条の2)を与えるものと認め、これを否定した原判決を破棄・差戻しした事例(上告審係属中)
>>公刊物未掲載

1 はじめに

    本件は、暴力団幹部(会長)である被告人A、その運転手である被告人B及び被告人Aの内妻である被告人Cが、共謀の上、被告人Bが、被告人Aを同乗させる一方、被告人Cが同乗していない状態で、被告人C名義のクレジットカードに付帯するETCカード(以下「本件ETCカード」という。)を挿入したETC車載器を搭載した普通乗用自動車を運転して、高速道路のETCレーンを通過し、通常の通行料金との差額分の利益を得たという電子計算機使用詐欺の事案である。
 原判決(大阪地判令和7年1月14日〔裁判所ウェブサイト〕)は、被告人A及び被告人Bが、被告人Bの運転する自動車で高速道路の料金所を流出入するに際し、同乗していない被告人C名義の本件ETCカードを挿入したETC車載器を作動させて、高速道路管理会社が管理する電子計算機に対し、本件ETCカードの正当な使用権限を有する者が本件ETCカードを利用して前記各料金所のETCレーンを通過したとの情報を与えた行為(以下「本件行為」という*1。)について、「虚偽の情報」(刑法246条の2)を与える行為に該当するとはいえないと判断し、無罪を言い渡した。
 これに対し、本判決は、本件行為について、結論として、「虚偽の情報の提供に当たると解するのが相当である」旨判示して原判決を破棄したものであり、電子計算機使用詐欺罪における「虚偽の情報」の解釈や認定に関し、実務上参考になると思われることから、紹介することとしたものである。 
 なお、本稿中、意見にわたる部分はもとより筆者の私見であり、下線は筆者による。


*1
 被告人らは、後記2(1)記載の事実とは別の日時における同様の行為についても電子計算機使用詐欺罪で公訴を提起されている。そのため、本稿中、「本件行為」としているところは、原判決及び本判決では「本件各行為」と記載されている。
 もっとも、いずれの行為も、客観的な事実関係自体に争いはなく、争点が共通しており、原判決及び本判決の「虚偽の情報を与えた」か否かの判断も共通していることから、本稿では、解説等の便宜上、1つの行為について記載することとする。

2 事案の概要等

(1) 公訴事実の要旨

 本件は、被告人A・B・Cが電子計算機使用詐欺罪で公訴を提起された事案であり*2、その公訴事実は、要旨、
    「被告人3名は、X社が有料道路の料金所に設置したETCシステムを利用するに際し、ETCカードの正当な使用権限を有する者が乗車する場合に有料道路の通行料金が割引されるETC利用割引の適用を不正に受けようと考え、共謀の上、被告人C名義のETCカードを挿入したETC車載器を搭載した普通乗用自動車を被告人Bが運転し、被告人Aが同乗して、令和4年12月8日午後5時36分頃から同日午後5時53分頃までの間、甲市内の高速道路入口ランプから流入し、同市内の高速道路料金所を経由して、乙市内の高速道路出口ランプから流出するに際し、真実は、被告人Cが乗車しておらず、被告人C名義のETCカードの正当な使用権限がないのに、同ETCカードを挿入した同ETC車載器を作動させて、前記各料金所等に設置されたETCシステムの路側無線装置と同車載器との間で、同ETCカードに記録されたETCカード情報等を交信させ、X社が管理するETCシステム利用による通行料金の記録、徴収等の事務処理に使用される電子計算機に対し、同ETCカードの正当な使用権限を有する者が同ETCカードを利用して前記各料金所等のETCレーンを通過したとの虚偽の情報を与え、その頃、同電子計算機に、前記区間内の通行料金が570円である旨の財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作り、よって、正規の通行料金との差額750円相当の財産上の不法の利益を得た。」
というものである。

(2) 事実関係

 被告人Aは、暴力団組織の会長である。
 被告人Bは、被告人Aの配下の暴力団員であり、被告人Aの専属運転手をしていた。
 被告人Cは、令和元年6月以降、被告人Aと同居しており、両被告人は事実婚の夫婦関係にある。
 被告人Cは、令和2年2月、被告人Aに相談せず、自己の判断で本件ETCカードの発行を受け、被告人Bに本件ETCカードを渡した。
本件ETCカードは、Y社が発行する被告人C名義のクレジットカードに付帯して発行されたものであり、本件ETCカードに関するX社の会員規約には、
〇 ETC会員は、他人に対し、本カードを貸与、預託、譲渡もしくは担保提供を一切してはなりません。
〇 本カードは、本カード上に表示されたETC会員本人だけが使用できるものとします。
と定められている。
 加えて、本件ETCカードの裏面には、「このカードの所有権は当社に属し、他に貸与・質入・譲渡することはできません。」との文言が記載されている。
 また、本件ETCカードの取扱いについては、X社の定める規則(以下「X社規則」という。)により、X社規則、ETCシステム利用規程及びY社の定める会員規約によることとされており、X社規則には、
〇 ETCカードによるX高速道路の料金の支払いは、通行の都度、クレジットカード会社から貸与を受けている本人が乗車する車両1台に限り行うことができます。
〇 当該ETCカードの名義人と異なる者が当該ETCカードを使用し、又は使用しようとした場合は、ETCカードによる料金の支払いの取扱いを停止し、利用者に他の手段による支払いを求めることができます。
〇 利用者が高速道路等の通行又は利用時に、利用者が正当に使用する権限を有していないETCカードを使用する行為により料金の全部又は一部を免れた場合は、当該通行又は利用を不正通行として取り扱います。
との規定がある。

(3) 争点(弁護人の主張) *3

 弁護人は、公訴事実について、客観的な事実関係は争わないが、電子計算機使用詐欺罪の成否について、被告人らは「虚偽の情報」を与えていないとして、被告人らは無罪である旨を主張していた。

*2
 被告人Bについては、電子計算機使用詐欺罪とは別の罪名でも公訴を提起されており、それについては原判決でも有罪認定されているが、本稿の趣旨とは必ずしも関連しないため、その記載は割愛することとした。
*3
 弁護人は、「虚偽の情報」を与えていないと主張するほか、被告人3名の故意及び共謀の有無や、本件行為による損害などと主張していたが、本稿の趣旨とは必ずしも関連しないため、本稿では言及しない。

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