インテリジェンスこぼれ話(第39回)

高市内閣のインテリジェンス強化策

インテリジェンスこぼれ話(第39回)

    高市内閣は、インテリジェンス強化に向かって具体的に作業を開始しています。高市首相は、昨年9月、総裁選出馬の政策発表記者会見で「インテリジェンス関係省庁の司令塔としての国家情報局の設置」を明言し、また、内閣発足に当たり、木原官房長官に対する指示書で「国家情報局」創設の検討を指示しました。
 なお、高市内閣は、昨年10月の内閣発足に当たり『自由民主党・日本維新の会 連立政権合意書』(以下「連立合意書」という)を締結し、その中で実施すべき12項目の5番目に「インテリジェンス政策」を掲げました。その内容は、冒頭でインテリジェンス強化が急務であるとの認識の共有を表明した上で、実行すべき政策5つを掲げています。

➀ 「国家情報局」と「国家情報局長」の創設(令和8年通常国会で実現)
➁ 「国家情報会議」設置法の制定(同上)
➂ 「対外情報庁」の創設(令和9年度末まで)
➃ 省庁横断的「情報要員養成機関」の創設(同上)
➄ インテリジェンス・スパイ防止関連法制の策定と成立(令和7年に検討開始)

    高市内閣のインテリジェンス強化策は、この連立合意書を基に実行されていくものと考えられます。そこで本稿では、連立合意書の政策内容について紹介します。
 ただし、連立合意書は簡略であり、組織運用を含めた具体策までは記載されていません。また、自民党の公式文献の中には、インテリジェンス強化について踏み込んだ具体策を提示した文献は見当たりません。これに対して、日本維新の会の安全保障調査会は、昨年10月に「『インテリジェンス改革』及び『スパイ防止法』(仮称)の策定に関する中間論点整理」を7頁にわたって発表しており、連立合意書はこの「中間論点整理」を基に作成されたものと推定できます。
 さらに、元国家安全保障局長の北村滋氏が、その著書『国家安全保障とインテリジェンス』(2025年7月)中の「5章 内閣の情報機構の現状と課題」で、内閣の情報機能強化の具体的提言をしており、自民・維新ともに同提言を参考にしていると思われます。
 そこで本稿では、維新「中間論点整理」とこの北村氏著作を参考に、連立合意書の5つの政策について、本稿執筆時(2026年1月末時点)までの政府の法案制定の動きも踏まえて、解説し、評価を述べることとします。

「国家情報局」と「国家情報局長」の創設

    連立合意書は、内閣情報調査室と内閣情報官を格上げして「国家情報局」と「国家情報局長」を創設し、「国家安全保障局」と「国家安全保障局長」と同格とすると記述しています。
 ここで言う「同格」の内容について、北村氏は、現行制度における内閣情報官の権限について、国家安全保障局長と対比して欠落しているものとして、➀各省庁が持つ情報へのアクセス権と、➁インテリジェンス関係省庁に対する総合調整権を挙げています。
 すなわち、内閣情報官は、内閣法19条によって、内閣官房長官、内閣官房副長官及び内閣危機管理官を助ける、単なるスタッフ職として位置付けられており、インテリジェンス関係省庁に対する情報アクセス権や総合調整権などの権限を全く付与されていません。これに対して、国家安全保障局長は、内閣法16条によって、内閣官房長官と内閣官房副長官を助けるスタッフ職として位置付けられているものの、同時に、国家安全保障に関する基本方針や重要事項についての「企画、立案及び総合調整」に関する事務を掌理するとされており、関係省庁に対する総合調整権を有しています。
 また、国家安全保障会議設置法6条は、関係省庁に対して資料・情報の提供説明義務を課しており、国家安全保障局は同会議の事務局として、関係省庁の資料・情報に対するアクセス権を保持しています。このように、内閣情報官と国家安全保障局長の権限には大きな差が見られます。
 ところで、情報アクセス権と総合調整権は、内閣のインテリジェンスのまとめ役には不可欠の権限です。情報アクセス権については、対外政策、安全保障、危機管理の基本に関わる情報を内閣に集約するには、それを担保する仕組みとして、国家情報局に対し、各省庁が持つこれら情報へのアクセス権を保障することが必要です。各省庁が持つ情報にアクセスせずに、情報を集約することはできないからです。
 また、総合調整権については、インテリジェンス・コミュニティ省庁が相互に緊密な連携を実現するには、同コミュニティの代表者である国家情報局長が情報収集や分析面で関係省庁に対する総合調整権を保持することが必要です。
 報道によれば、情報アクセス権については、政府は国家情報会議を設置して、各省庁に同会議への資料・情報の提供説明を義務付ける方向で調整中のようであり、そうなれば国家情報局はその事務局として、各省庁が持つ情報へのアクセスが可能となります。
 総合調整権については、現時点での政府案は報道されていませんが、維新「中間論点整理」では、「国家情報局長に、予算編成権と人事権を付与すること」とされています。これが、インテリジェンス関係省庁の予算編成や人事に関する調整権を意味するとすれば画期的なことですが、関係省庁の強い抵抗が予想されます。国家安全保障局長並みのインテリジェンス活動に対する一般的な総合調整権の記述にとどまるとしても、仮に法制化されれば、現状からすれば大きな前進となります。
 なお、米国インテリジェンス・コミュニティの代表である国家諜報長官DNIは、関係省庁に対して行政命令を発する権限を持ち、「国家諜報計画」予算編成権、人事権、諜報活動の優先順位や規準の設定、収集任務付与、セキュリティ・クリアランスや秘密保全など、幅広くかつ強力な権限を保持しています。これに対して、大統領首席補佐官や安全保障担当補佐官は、実務上は大きな影響力を行使していますが、その地位は純粋に大統領を助けるスタッフであって、関係省庁間の政策調整などに関して法令上の権限を有するわけではありません。
 つまり、関係省庁との関係では、米国の国家諜報長官は幅広く強力な法令上の権限を持っているのに対して、大統領補佐官は法令上の権限は全く持っていないことが特徴です。他方、我が国では、国家安全保障局長は法令上の権限を持っているのに対して、内閣情報官は法令上の権限を持っていないのです。今回の改革は、国家情報局長に対して、国家安全保障局長並みの法令上の権限を付与しようとする試みと言えるでしょう。

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