実務刑事判例評釈(case 371)
那覇地判令7.3.18
本件は、指定暴力団甲組の若頭である被告人A、同組組員の被告人B及びその後輩である被告人Cが、X(被告人Bの後輩。本件について別に罰金刑に処せられた者。)と共謀の上、甲組元組員である被害者Vに対して暴行を加え、約7日間の加療を要する傷害を負わせたとして傷害罪の共同正犯として起訴されたのに対し、裁判所が、被告人Aについてのみ正当防衛の成立を認めて無罪を言い渡した事案である。
本件は、複数名の共同正犯者の中の一人についてのみ正当防衛が成立すると判断された事案であるところ、この種の集団暴行事案では、暴行を加えた者から正当防衛の主張がされることも少なくなく、「共同正犯と正当防衛の成否」という論点について、実務上参考となると思われることから、紹介することとしたものである。
なお、本稿中意見にわたる部分は、もとより筆者の私見であることを申し添える(判示引用文中の下線は筆者による。)。
(1)公訴事実の要旨
本件で、被告人A、被告人B及び被告人Cは、併合審理を受けた上で判決を言い渡されたものであるが、被告人Aに対する起訴に係る公訴事実は、要旨、
「被告人Aは、指定暴力団甲組若頭であるが、同組組員の被告人B及びX、被告人Bと親交のある被告人Cと共謀の上、令和5年9月17日、那覇市内のビル先路上において、同組元組員であるV(当時35歳)に対し、その顔面や身体を足で蹴るなどの暴行を加え、よって、同人に加療約7日間を要する両眼窩部皮下出血等の傷害を負わせた。」
というものである(以下では、前記ビル先路上を「本件現場」と表記する。)。
(2)事実関係
本判決で認定された事実関係は、概要、以下のとおりである。
ア 人的関係
被告人Aは、平成26年から指定暴力団甲組の組員であり、本件当時は同組の若頭であった。被告人Bは、同組組員であり、同組内では、被告人Aより下位の立場にあった。被告人C及びXは、いずれも被告人Bの後輩であった。Vは、平成18年頃から令和5年に破門されるまで、甲組組員であった。
イ 本件より前の事情
Vは、令和5年6月頃から、繁華街でクラクションを鳴らして自動車を暴走させたり、路上や飲食店で暴言を吐いたりするなどの奇行に及んでいたところ、被告人Aは、Vが甲組を破門となった後も、Vが暴れている状況があったら報告するよう被告人Bに指示を出し、被告人Bは、被告人CやXに対して同様の依頼をしていた。
本件前日頃、Vが居酒屋で暴れたとの情報を得たため、被告人A、被告人B及びXが同所に駆け付け、被告人AがVに対して口頭で注意するなどしてその場を収めたことがあった。
ウ 本件当日の事情
本件当日、Xは、Vが繁華街で暴れている旨の情報を得て被告人Bに報告し、被告人B、被告人C及びXは、同繁華街付近のコンビニで合流した。その際、被告人Bは、「もしかしたらVをやらないといけないかもしれないので、何か武器を用意しておくように。」とXに言い、被告人Aを迎えに行くためにその場を離れた。その後、被告人Cは、Xに対し、被告人Cの車の中から木刀を取り出して手渡した。
他方、被告人Bは、被告人AにVが繁華街で暴れている旨の報告をして被告人Aを迎えに行き、被告人A及び被告人B両名は、被告人Bが運転する車両に乗車して同繁華街へ向かった。被告人A及び被告人Bは、被告人C及びXがいた前記コンビニ付近で停車し、被告人Aが付近にいたVに対し、被告人Bが運転する車両に乗車するように促したが、Vは、これを拒絶した。この際、被告人A又は被告人Bのいずれかが、Xに対し、Vを本件現場付近まで連れてくるように指示した。
Xから本件現場付近に行くように言われたVは、渋々、本件現場付近に向かい、Xは、被告人CとともにVの後を追従し、Xは腰付近に木刀を隠し持っていた。
他方で、被告人A及び被告人Bは、本件現場付近まで車両で移動した後、被告人Aを先頭にしてVのいる方向に向かって歩いた。
エ 本件現場での出来事
Vは、本件現場において被告人Aと相対するや否や、被告人Aの顔面を複数回殴り付けた。なお、Vが前記暴行に及ぶ直前、Xは腰付近に隠していた木刀を取り出して右手に持った。
Vが被告人Aの顔面を殴るや否や、被告人CがVの首付近につかみかかってVをその場に押し倒し、被告人3名及びXは、こもごも倒れ込んだVの身体を殴る蹴るなどの暴行を加えた。被告人Aは、Vを2回ほど蹴る暴行を加えた。その間、Xは、持っていた木刀でVを殴り付け、被告人CもXから木刀を受け取ってこれでVを殴り付けようとした。被告人らがVに暴行を加えていた時間は20~30秒程度であった。
被告人らによる暴行後、被告人AがVに対して「帰れ」などといい、Vはその場を去った。
前記木刀は、最終的に被告人Cが本件現場に現れた氏名不詳の男に手渡し、当該男は木刀を持ってどこかへ走り去った。Xは、被告人Bから木刀の隠し場所を伝えられたので、その場所に行き、木刀を発見した。
前記暴行により、Vは傷害を負い、他方で被告人AもVの暴行により口から出血する傷害を負った。
(3)争点
本件の争点は、被告人らについて正当防衛が成立するか否かである。
検察官は、被告人らが、Vの迷惑行為をやめさせるために、被告人Aや被告人BにおいてVの迷惑行為を見かけたら連絡するよう指示していたこと、被告人らの側からVを本件現場に呼び出していること、被告人Bらにおいて木刀を準備していたこと、被告人らはVによる暴行に対して即座に反撃し、一瞬で決着がついた後は、4対1で一方的に暴行を加えていることなどから、被告人らについて正当防衛は成立しない旨主張し、弁護人は、被告人ら全員について、Vが先に手を出してきたことから自分たちの身を守るために暴行しただけである旨主張して、被告人A、被告人B及び被告人Cのいずれについても正当防衛が成立する旨主張した。